文化遺産の保存・継承に大きく貢献した個人や団体を顕彰する「第16回読売あをによし賞」(読売新聞社主催)の表彰式が2022年11月3日、大阪市北区のリーガロイヤルホテルで開かれた。本賞で文化財修理に使われる「補修紙」を製作する江渕栄貫さん(74)(高知県土佐市)、奨励賞で
「まさかの本賞をいただき、深くお礼申し上げます。夢にも思っていませんでした」と、表彰状を受け取り顔をほころばせた。40年以上にわたり、国宝「東大寺文書」など文化財修理に使う補修紙を200点近く製作してきた。
車のディーラーから転身し、高知県の紙業試験場(現・紙産業技術センター)に、手
自宅近くの畑では、和紙の原料となるコウゾが人の背丈より高く育つ。生産者の苦労を知り、原料への理解を深めるために栽培を始め、今も足しげく畑に通う。
様々な発注に対応できるよう、倉庫には大量の原料を保管する。補修紙は10枚、20枚といった少量の注文が多い。時代や文書によって使う原料の種類や配合が異なり、在庫の原料をどう組み合わせるかが大切になる。
紙の表面のちりを取り除いたり、原料のコウゾやミツマタを煮込んだり、たたいたり、地味な作業を大事にする。「今後も人との出会いを大切に励みたい」。紙への
京都府宇治市に工房を構える錺職人の八代目。金や銀、銅を使い、ふすまの
大学時代に家業を継ぐと決めた。京都国立博物館の学芸員に「いいもん作るんやったら、いいもん見なあかんで」と言われ、名古屋城や大覚寺、祇園祭の
近年は、国宝や重要文化財に使われている金具を復元、修理している。二条城二の丸御殿では、模写の障壁画に付ける引手を数多く復元した。「伝統技術伝承者協会」(京都市)の理事長も務め、広く文化財修理を取り巻く共通の課題に熱心に向き合っている。
200本以上のノミや彫刻刀を使い分ける井波彫刻の由緒は、江戸中期の瑞泉寺(富山県南砺市)の再建時に遡り、地元大工が京都の木彫刻師から教えを受けたことに始まる。精巧で躍動的な作風で知られ、明治・大正期以降は、寺社彫刻だけでなく住宅の欄間なども生産した。
井波彫刻協同組合は1947年に設立され、養成所で職人を育ててきた。住宅だけでなく文化財修復に手を広げ、名古屋城本丸御殿の欄間などを制作している。
来年8月には、世界各国の彫刻家が集まる「南砺市いなみ国際木彫刻キャンプ」が開催される。組合理事長の花嶋弘一さん(61)は「受賞を励みにして、これからも“木彫りの里”である井波の彫刻文化を発信していきたい」と意気込んでいた。
審査講評 湯山賢一・東大寺ミュージアム館長
「我々の先祖、先人たちの生活文化の足跡である文化遺産、文化財の伝承は、作った技の存在が極めて大きい。モノと技の伝承に尽きるといってもいい。本賞の江渕さんも、正倉院文書から江戸時代の文書まで多種多様な紙を作れる技術が大きく評価された。そういった技の世界で頂点に立つ方々を今回顕彰できた。」
(2022年12月6日付 読売新聞朝刊より)
0%