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2024.4.22

【読売あをによし賞】第18回候補者の応募受付中 ― 保存・修復、継承・発展を志す

読売新聞社が主催する「読売あをによし賞」は、文化遺産を保存・継承する個人や団体を2007年から毎年表彰してきた。これまでに本賞を受賞した甲冑かっちゅう修理師の小澤正実さん(70)(東京都北区)と、重要文化財の古文書を守る八桙やほこ神社氏子総代(徳島県阿南市)の現在の活動を紹介する。

2011年受賞 甲冑修理師 小澤正実さん(東京都北区)

甲冑修理への思いを語る小澤正実さん(東京都台東区で)

東京国立博物館(東京・上野公園)地下1階にある文化財修理室の一角を借りて、小澤正実さんは、1984年から1人で甲冑の修理に打ち込んできた。漆工や皮革加工、染色、金工など様々な技法が取り入れられた甲冑は工芸の集大成ともいわれる。

「武器武具だからなかなか工芸品として理解されない。それだけに、あをによし賞は励みになりました」。手がけた国宝と重要文化財は計62件にのぼる。

胴体や袖など主要部分は短冊状の鉄や革の板「小札こざね」(長さ数センチ)で構成する。1枚ずつ並べた数千枚の小札を革ひもでとじる。塗装や補強のため、小札や革の表面には漆を10回前後塗り重ねる。鹿革に獅子やボタンの文様を染める「絵革えがわ」、かぶとを飾る金物の加工など、部材一つひとつに膨大な手間と時間をかける。

時代の違いわかる見本品 

近年力を入れているのが時代ごとの造りや材料の違いがわかる各部位の見本品の制作だ。「複雑な構造や仕組みが子どもでもわかる資料を作りたい」と、漆を塗ったり、ひもを結んだりする制作途中の見本品を作っている。国に寄贈し、展覧会などで役立ててもらう予定だ。

小学生の頃に戦国時代が舞台の大河ドラマを見て、甲冑にみせられた。構造に強い関心を持ち、この世界に入った。「長く続けられたのは甲冑が好きだったから。見本品は生涯作り続け、技術の継承に少しでも力になりたい」と力強く語った。


2020年受賞 八桙やほこ神社氏子総代(徳島県阿南市)

収蔵庫前に集まった待田さん(左から2人目)ら八桙神社氏子総代のメンバーと樫原宮司(左端)(徳島県阿南市で)

「温度と湿度が管理された収蔵庫内で古文書を点検できるようになり、より一層安心して保存に取り組めるようになりました」。拝殿に設けられた記録計を眺めながら、八桙神社の氏子総代代表・待田泰信さん(73)が目を細める。

八桙神社は海上輸送の安全祈願などを記し、紺色の和紙に金泥きんでいで経文を書いた重要文化財の「紙本墨書二品家政所下文附紺紙金泥法華経しほんぼくしょにほんけまんどころくだしぶみつけたりこんしきんでいほけきょう八巻」などを保管している。氏子総代5人が、約30世帯の住民らと境内の清掃や文化財の虫干しを続けてきた。

八桙神社に伝わる「紙本墨書二品家政所下文附紺紙金泥法華経八巻」=阿南市提供
収蔵庫修理 庫内で虫干し 

あをによし賞の副賞賞金は、文化財約20点が入る鉄筋コンクリート製の収蔵庫(高さ5・6メートル、幅4・6メートル、奥行き5・8メートル)の修理にあて、新たに湿度を一定に保つ空調設備や監視カメラを導入した。建設から半世紀以上が経過し、カビ防止に必要な湿度調整が難しくなっていた。

例年5月と10月に拝殿で行っていた虫干しは、収蔵庫内でできるようになった。樫原健宮司(73)は「拝殿は収蔵庫に比べて湿度が高く、床の畳にいる虫がつく懸念もあった。外に持ち出す必要がなくなったのは大きい」と振り返る。

待田さんも「大きな安心感を得た。大切な宝を後世に伝え、国宝指定へ向けた機運の盛り上がりにつながれば」と願っている。

◆ 「第18回読売あをによし賞」 候補者応募受け付け

読売新聞社は「第18回読売あをによし賞」の候補者の応募を受け付けている。文化財の保存、修復の最前線の現場を支える活動「保存・修復の部」と、工芸や芸能などの伝統文化を継承し、発展させる取り組み「継承・発展の部」で選考する。賞金はそれぞれ200万円。締め切りは5月31日(必着)。

所定の応募用紙に必要事項を記入し、Eメールまたは郵便で送る。再応募も可能で、海外での活動も含む。宛先は〒530・0055 大阪市北区野崎町5の9、大阪読売サービスイベント事業部「読売あをによし賞」事務局。メールはawoniyoshi@yomiuri.comへ。

問い合わせは事務局(06・6366・1857=平日午前10時~午後5時)。結果発表は秋頃を予定している。

(2024年4月7日付 読売新聞朝刊より)

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