「紡ぐプロジェクト」5周年記念フォーラムが昨年〔2023年〕11月25日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれ、国宝「阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)」(京都・知恩院蔵)の修理をテーマにした6人のパネルディスカッションに美術ファンなど約200人が聴き入った。
光影堂(京都市)の大菅直社長は「阿弥陀如来が雲に乗り念仏行者のもとにやって来るスピードを感じた」と「早来迎」の魅力を挙げ、「折れやしわ、軸の曲がりなどを確認したが、修理をすれば大きく改善すると直感した」と期待を持って修理にあたったという。
沖本明子保存技術部長・主任技師は「修理に必要な用具や原材料は全て国の選定保存技術保持者や保持団体が作ったもの。妥協しない材料を選択することは作品だけでなく、伝統技術を守ることにもつながっている」と修理の技術者を支える環境にも言及した。
これを受け、文化庁の綿田稔主任文化財調査官は「文化財の保護、継承には用具・原材料の確保、修理技術を持つ人材の育成、事業規模の確保が欠かせない」と改めて強調、皇居三の丸尚蔵館の朝賀浩副館長兼学芸部長も「文化財保護法は、私たち国民も保護の担い手となるよう求めている。もっと国民の皆さんに関心をもってもらうようにしたい」と文化財修理に広く理解を求めた。
さらに京都・知恩院の関良法文化財保存管理部課長が「どの時代に、どの業者が、どんな修理をしたか。情報を伝えて修理技術の向上と進歩を図り、日本の美を守るべきだ」と提案した。
「早来迎」は4月に東京国立博物館で開催する特別展「法然と極楽浄土」で、修理後初公開する予定で、知恩院の前田昌信執事は「法然上人の教えを聞いて感銘を受けた人が描いたのだろう。お念仏を唱えれば阿弥陀さまがやって来て極楽浄土へ案内すると、字を読めない人にもわかりやすく示した斬新な絵をご覧いただきたい」と、修理後の初公開に期待を寄せた。
(2024年1月7日付読売新聞朝刊より)
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