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2021.3.9

【継承 祈りの舞vol.2】謡と舞は型より「思い」 人間国宝 梅若実玄祥インタビュー

東日本大震災から10年を迎える2021年3月に行われる特別公演「祈りのかたち」。出演者らにインタビューした特集「継承 祈りの舞」の第2回は、能「土蜘蛛」の後シテ、土蜘蛛の精を勤める人間国宝の梅若実玄祥さんに、観世流の名家・梅若家の歴史や今回の公演への思いを語ってもらった。

梅若実玄祥さん (撮影:森山雅智)

私は本名の善政から景英かげふさ、六之丞、紀彰、六郎、玄祥げんしょう、そして実と6回、名前を変えています。「趣味のようなもの」と言っていますが、一応、梅若家にある名前を順番に名乗っているのです。家や名前は、芸を継ぐというよりも先人の精神を継ぐものだと私は思っています。

「玄祥」は私が二世です。初世は徳川家康公にかわいがっていただき、秀忠公からも装束をいただいた記録が残っています。梅若家の中興の祖で、誰かがこの名前を名乗っていれば皆さんが忘れずにいてくれると思い2008年に襲名しました。

3年前、古希を機に曽祖父からつながる名跡「実」を襲名しましたが、周りから「玄祥をやめるのはもったいない」という声も多く、今は名前の下に付ける「名乗り」として、「実玄祥」と言っています。

「土蜘蛛」は、悪が退治される物語ではありますが、能は色々な見方ができるものです。蜘蛛を今のコロナ、あるいは反体制者と見立てることもできるでしょう。皆様それぞれにお考えいただければ面白いはずです。今回は蜘蛛が3体出て、視覚的な面白さもあります。

能「土蜘蛛白頭」梅若実 (撮影:森口ミツル)

あの震災の後、東北の舞台で舞った時、立っているだけで自然と涙が出てきました。自分の中の思いがあふれた。謡っていても舞っていても、ただ型の通りではなく「思い」を持っていると新しい発見が次々と生まれます。例えば、子供を亡くした母親の悲しい謡なのに、ふと子供との楽しい思い出が面の中でよみがえってくることもある。テクニックとは別のところで、謡に表情が出るのです。

今回も、心を込めて舞わせていただきます。それが、私たち能楽師にできることだからです。

プロフィール

うめわか・みのるげんしょう 1948年生まれ。梅若六郎家五十六世当主。2014年に人間国宝に認定。廃れた演目の復曲、新作能にも積極的に取り組んでいる。

バックナンバー

日本博皇居外苑特別公演 ~祈りのかたち~公式サイトはこちら

(2021年3月7日読売新聞朝刊より掲載)

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