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2020.10.21

権勢の変化、映す屏風絵~「洛中洛外図」に描かれた京のすがた 

重要文化財 洛中洛外図屏風(歴博甲本、部分)
室町時代・16世紀 千葉・国立歴史民俗博物館蔵

洛中らくちゅうと呼ばれる京都の市中と郊外の名所を合わせ、京都のにぎわいと四季の景観を描いた「洛中洛外図屏風」。現存最古とされる歴博甲本は、応仁の乱(1467年)後の復興を経て落ち着いた京都の街並みが描かれる。

都の平安と秩序を守るのが室町幕府の役割とされ、均整の取れた構図からは、武家の棟梁とうりょうである足利将軍家の力が健在だった時代背景をしのばせる。

その後、下克上の世の中に移る中、洛中洛外図屏風の表現や構図も変化する。著名な上杉家本(1565年)は織田信長から上杉謙信に贈られたというもので、まばゆく輝く金雲や、躍動的な人々の姿が特徴だ。

聚楽第図屏風(部分)
安土桃山時代・16世紀 東京・三井記念美術館蔵(前期展示)

室町の秩序を打ち破った表現手法は安土桃山時代の「聚楽第図屏風」に結実。豊臣秀吉の京都の政庁として造られた聚楽第を目立たせる大胆な作品だ。東京国立博物館学芸企画部長の田沢裕賀ひろよしさんは「他者を圧倒する天下人の権力が映された桃山美術の象徴的な構図」と説明する。

江戸時代初期の「洛中洛外図屏風」の勝興寺本は、街並みの構図は室町時代の洛中洛外図屏風に似ている一方、徳川家の京都の拠点の二条城が大きく描かれる。天下人の権勢を示す信長・秀吉時代の影響を受けた、徳川期ならではの「桃山美術」の特徴だろう。

2020年10月4日付読売新聞より掲載

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