文化庁は15日、政府が東京五輪・パラリンピックに合わせて開催する、文化芸術の祭典「日本博」の主要プログラムを発表した。「日本人と自然」を総合テーマに、美術展や舞台公演など約370件(15日現在)を全国で展開する計画だ。
東京・虎ノ門で開かれたこの日の記者会見では、祭典を周知するため、女優の黒柳徹子さん(86)が「日本博広報大使」に任命された。黒柳さんは「日本は大変、古い文化を持った国。若い方たちにも、外国の方たちにも分かってもらえるように頑張ります」と話した。
「日本博」は3月14日、東京国立博物館(東京・上野)で、歌舞伎や能、文楽、雅楽など伝統芸能が一堂に会したオープニングセレモニーを開く。その後、「美術・文化財」「被災地復興」など8分野で企画を行う。
「日本博」は「日本の美」を国内外に発信し、外国人観光客にも日本文化を体感してもらうことが狙いだ。主要プログラムには、文化庁、宮内庁、読売新聞社が官民連携で推進する「紡ぐプロジェクト」の展覧会も採択されている。
黒柳さんは広報大使の任命式の後、萩生田文部科学相らと日本文化の魅力について語り合った。
黒柳さんがまず、日本文化を象徴するものとして挙げたのが「着物」だ。かつて、米ニューヨークの「イースターパレード」に振り袖姿で参加した際、黒柳さんを撮影した写真が地元新聞に掲載され、注目を集めたという。喜劇王チャーリー・チャップリン(1889~1977年)とも面会し、チャップリンは黒柳さんの手を握りながら「ジャパン」と声を上げた。「日本の皆さんを愛している」と伝えられて感激した、との思い出話を披露した。
「ほかにも『歌舞伎』とか『
その上で、黒柳さんは「若い時は日本の素晴らしさを当たり前のことのように思い、(魅力に)気づかないこともたくさんあると思う」。広報大使就任を「光栄」と喜び、「(若い人にも)日本には優れているものがたくさんあると自信を持ってほしいし、外国の方にも知ってもらいたい。出来ることがあったら一生懸命やりたい」と述べた。
萩生田文科相も「日本博が、日本文化を分かりやすく伝え、国内・海外を含めた多くの人々に感動を与えて、歴史に残るものになれば」と期待を語った。
日本博事務局事務総長を務める河村潤子・日本芸術文化振興会理事長に「日本博」の意義や魅力などを聞いた。(文化部 井上晋治)
「日本博」の総合テーマは「日本人と自然」です。日本には素晴らしい四季があり、絵画や芸能など様々な芸術で春夏秋冬が表現されてきました。
例えば、昨年12月に国立劇場で演じられた「
また、能楽では、植物や虫などに仏性を見いだします。自然と対話し、感情を共有する長い伝統が、日本文化にはあるのです。舞台装置や美術、建物には紙や木、布などの自然の材料も使われている。歌舞伎の「
「日本博」の様々な企画内容は、縄文から現代までの長い時間軸で考えています。全国各地で開催することで、これまで知らなかった文化施設を訪れる機会も増えるでしょう。人の交流が進んだり、外国人と感動を共有したりすることにも期待しています。そして、初めて伝統芸能に触れる外国人に親しんでもらうため、女形の演技実演や
ジャンルを超えた共同制作も特徴の一つ。昨秋の「第25回国際博物館会議(ICOM)京都大会」の開幕で披露された能舞台「
私が子供の頃は、お盆やお正月に母の実家がある京都府綾部市に帰省し、山や川でよく遊んだものです。アユやセミ、きのこ、草花を主人公にした童話を書いたこともあり、能楽や歌舞伎で動植物が擬人化される文化・芸術は、親しみやすい世界でした。お正月には実家に獅子舞が来て頭をかんでもらい、人々が無形の伝統芸能でつながっているとも感じました。
現代は効率や便利さを追求しがちですが、伝統文化は時間と手間をかけないと価値が伝わりません。「日本博」を通じ、誰かと感動を共有してもらえたらうれしいと思います。(談)
【プロフィル】かわむら・じゅんこ 京都府生まれ。文部科学省生涯学習政策局長、内閣官房内閣審議官などを経て、2018年4月から独立行政法人日本芸術文化振興会理事長。19年4月から日本博事務局事務総長。
■日本芸術文化振興会 国立劇場や国立能楽堂など全国の国の劇場・施設で伝統芸能など舞台芸術公演を行う。1990年には芸術文化振興基金を創設。昨年4月から日本博事務局も担う。
「日本博」の基本理念は、「日本の美」を国内外に発信し、次世代に伝え、未来の創生につなげること。大自然の多様性を尊重し、あらゆるものに命が宿ると畏敬してきた日本人の心が、芸術や生活などで様々に表現されてきた歴史を紹介する。
主な企画は「美術・文化財」「舞台芸術」「生活文化・文芸・音楽」など8分野。15日現在、約370件が採択・認証された。
「日本博」は、安倍首相直轄で2015年に発足した「『日本の美』総合プロジェクト懇談会」で提唱された。海外発信も重視し、仏米では芸術祭典が開かれた。18年には「日本博総合推進会議」が作られた。「日本博」は19年3月、旗揚げ式が行われ、参画が認証される形で「紡ぐプロジェクト」の二つの特別展も既に開催。今年3月の開幕式典から本格始動となる。
(2020年1月16日読売新聞朝刊より掲載)
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