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2020.8.31

ソーシャルディスタンス、支援基金…国立劇場の新型コロナ対策

日本芸術文化振興会の各劇場では、主催公演再開に向け、感染防止策にも工夫を重ねている。

特に知恵を絞ったのは「ソーシャル・ディスタンス」。客席は、前後左右の座席を空けて座る必要があるが、ただ空席にするのは味気なく、会場の雰囲気も壊れてしまう。そこで職員全員に「すわれない座席」のアイデアを募集したところ、50件以上の提案が寄せられたという。その中から、和の文様を印刷した紙を貼る案を採用した。

国立文楽劇場の様子

8月22日に「文楽素浄瑠璃の会」が行われた大阪・国立文楽劇場では、「義経千本桜」や「蘆屋あしや道満大内かがみ」「奥州安達原」で人形が着る衣装の柄3種類を選び、色合いもきれいに配置した。

国立能楽堂の座席

すでに7月から主催公演が開かれている国立能楽堂と国立演芸場、8月15日から19日まで「稚魚の会・歌舞伎会合同公演」、8月22、23日に「音の会」で主催公演を再開する東京・半蔵門の国立劇場も、それぞれの劇場に合わせた紙を用意し、「すわれない座席のとなりで わすれない感動を」と呼びかける。

公演時間も短く

このほか、公演時間を短くすることで滞在時間も短縮する。歌舞伎では、見せ場で、客席から役者に屋号を呼びかける「大向こう」も控えてもらうそうだ。国立劇場制作部の大木晃弘副部長は「アフターコロナでは、新しい形で伝統芸能と触れてもらえるよう様々な工夫が必要。入門編になるような動画配信も計画している」と話している。

基金に500件の寄付 

「くろごちゃんファンド(国立劇場基金)」は、5月末に設立以来、7月までに500件にのぼる寄付が寄せられた。ほとんどが伝統芸能の存続を願う個人からだ。

7月から主催公演が再開したとはいえ、新型コロナウイルスの感染防止措置のため、入場者は客席の半分以下に制限され、入場料収入は半減、事業として採算はとれず、演者の出演料、大道具など舞台演出にかかる費用にも影響しかねない。このため、日本芸術文化振興会は、基金を活用し、公演の質の維持を図る。

国立劇場、国立演芸場、国立能楽堂、国立文楽劇場、国立劇場おきなわの主催公演が次々に再開。同振興会は内部経費の節約や貸館などの事業収入も制作費に充てていく考えだが、今後も公演の入場者数は制約を受けると予想されるため、現状では十分とはいえず、さらに寄付を呼びかけたい意向だ。

伝統芸能以外も支援

同振興会は、並行して「文化芸術復興創造基金」を設け、音楽、舞踊、演劇など舞台芸術や映画、地域文化、文化財の活動をしている団体など伝統芸能以外にも支援を広げている。

いずれの基金も寄付の募集は1口1000円から。寄付の入金方法は、銀行振り込み、クレジットカード決済で。どちらの基金への寄付とも税制優遇が受けられる。

ところで「くろごちゃん」とは

基金の名前にも登場する「くろごちゃん」は、国立劇場のマスコットだ。

もともと歌舞伎などでは、舞台上で小道具を渡したり、衣装の着替えを手伝ったりと、俳優を補助する「後見こうけん」という役割がある。後見は、紋付きはかまかみしもなどの姿で登場することもあるが、顔も隠れる全身黒い衣装の後見は「黒衣くろご」と呼ばれ、「くろごちゃん」はこれにちなんだものだ。

本名は「国立くろ五郎」で身長は「拍子木3本分」、一緒に生まれた兄弟「国立たま右衛門」らは俳優の卵――などの設定という。

(2020年8月2日読売新聞朝刊より掲載)

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