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2019.10.10

【音月桂の和文化ことはじめvol.1】着物でしっとり秋散歩 歌舞伎を見に行きましょう

秋といえば食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋と、何かに打ち込みたくなる季節ですね。今年は、日本文化をたしなむ秋もいかがでしょう。このコーナーでは宝塚歌劇団出身の女優、音月桂さんと一緒に、専門家に案内してもらいながら和のお稽古事や文化を体験します。宝塚時代は時代劇に多く出演し、和菓子も大好き、そろそろ日本文化をきちんと学びたいなという音月さん。「和文化ことはじめ」、スタートです!

和と言えばまずは着物から、ということで、第1回のテーマは「着物で歌舞伎を見に行こう」。東京・日本橋で秋散歩を楽しみ、国立劇場に向かいます。

老舗百貨店で着物選び

最初に訪れたのは、日本橋高島屋(東京都中央区)。約190年の歴史を持つ高島屋にとって、呉服は「創業の商い」。商品として扱うだけでなく、長年にわたって作家や職人らを発掘し、オリジナルの着物も製作。海外の万国博覧会に出品し、日本の工芸技術の高さを世界にアピールしてきました。竹内栖鳳せいほう都路華香つじかこうら、若い頃に同社で着物の下絵を描いていた日本画家も大勢おり、今もなお、呉服にこだわりがあることで知られます。

迎えてくれたのは呉服部の小池直美係長。「歌舞伎に行くなら、『付け下げ』はいかがでしょう。胸と袖の左前、右後ろに柄があります。『訪問着』ほど仰々しくなく、『小紋』よりもフォーマルな印象で、食事会や観劇などのよそいきにぴったりです」。早速、着物の種類を教えてもらいました。 音月さんの雰囲気を踏まえて、小池さんが選んだのは、「破れ七宝しっぽう模様散らし」という七宝をアレンジした着物。帯は高野槙こうやまきを描いた名古屋帯です。

「着物と帯を同系色でも、全く異なる色でも合わせられるのが着物の面白さであり、奥深さです」と小池さん(右)

「七宝と高野槙は、どちらも円満や奥ゆかしさなどを表現する縁起の良い柄といわれています」と小池さん。「着物は薄鳩羽鼠うすはとばねずという色です。それに深紫こきむらさきの帯、しゅの帯締めを挿し色に」。シックで上品な中に、若さと華やかさを演出した小池流コーディネートです。 「色合いが優しくて柔らかな印象になりますね。洋服でははっきりした色を選ぶことが多いので新鮮です」と、音月さんも気に入った様子です。

男役の着物、女性の着物

「着物を着ると背筋がピンと伸びますね。大人の女性にワンランクアップしたような気がします」と笑顔の音月さん。小池さんが「物を取る時は肘を体からあまり離さないように」「髪を直す時も、手首があらわにならないよう、袖を持つといいですよ」とアドバイスします。「つい肘を張ってしまう癖があるんですよね」と苦笑しながら、指先まで神経を行き届かせる音月さん、一段とエレガントな風情に。

音月さんは、宝塚歌劇団の中でも「日本物」と言われる時代劇のミュージカルを多く上演する雪組の元トップスター。着物は着慣れていますか?

「宝塚時代は男物の着物ばかりで、裾払いもないし、袖も大きく、はだけてもいいように着ていたので……随分違いますね。今もたまに浴衣は着ていますが、今日のような本格的な着物は久しぶりでワクワクします。自分できれいに着られるようになりたいです」

能のかずら帯をモチーフにした唐織りの帯。「すごく軽いし、本当に色合いが美しいですね」と音月さんもうっとり
扇子の仰ぎ方にも和の心

着物に着替えたら、小物も和でそろえたいもの。次に訪れたのは、1590年創業という扇子と江戸うちわの老舗「伊場仙」です。「扇子は男性用と女性用で長さが異なります。着物と反対色で合わせてもすてきですよ」と話すのは、吉田誠男社長。京友禅の手描き染め技法の一つ、「しけ引き」を使ってデザインされた扇子を薦められた音月さん。「光の当て方を変えると色も変わって、とてもきれいですね。職人さんの丁寧な手仕事に見れます」

「江戸の扇子は、馬を九頭描いて『うまくいく』と表すなど、シャレの利いたものが多いんです」と吉田さん

吉田さんから「電車や劇場の中では、周囲の邪魔にならないよう、扇子を胸より下に持って仰ぐといいですよ」と教えてもらい、「風を起こす時も他人を思いやる、日本人の優しさと気遣いが感じられますね。それにとても優雅な感じがします」と音月さんも感心しきりです。

伊場仙は江戸時代から浮世絵の版元もしており、店舗の入るビルに「まちかど展示館」を設け、浮世絵を展示しています。吉田さんの案内で、音月さんも興味深そうに見ていました。

歌舞伎に、文楽に

いよいよ、歌舞伎を見に国立劇場へ。「実は宝塚音楽学校の予科生時代(1年目)に、日本舞踊の公演で舞台に立ったことがあるんです」と音月さん。国立劇場では、10月2日から26日まで、中村芝翫しかんさん主演の「通し狂言 天竺徳兵衛てんじくとくべえ韓噺いこくばなし」を上演しています。

立派な劇場を前に期待が膨らみます。「これから伝統芸能の舞台をたくさん見たいと思っていたところでした。歌舞伎は何度か見ましたが、文楽はまだなくて、とても興味があります。その時は、ぜひ着物を着て、和の雰囲気を楽しみたいですね」

〈着物ことはじめ〉知りたい和の心

一日中、着物を着て過ごしましたが、日本人の体に合うせいか疲れませんでした。着物を着ただけで、心がシャンとして、かっこいい女性になった気分になります。着物って本当にすてき。これを機に普段から着てみたいです。

宝塚時代は、音楽学校で三味線や茶道を習い、時代劇をやるにあたっては歩き方や小物の取り扱い方などの所作、立ち回りなども学びました。子どもの頃は手順を覚えるのに精いっぱいでしたが、年を重ねるにつれて、それらの意味や日本的な物の考え方といった精神性にも興味が生まれ、もっと追求したいと思うようになりました。

たとえば、お芝居で侍や新撰組隊士を演じましたが、切腹する人に(長く苦しまないよう)介添人を付けるといった点には、相手への尊重や情の厚さ、日本人の美学のようなものを感じます。

オリンピック目前で、海外の方も大勢、日本に来られて、日本のことを意識する機会が増えています。日本文化を学びながら、自分自身も成長していきたいです(談) 。

(企画・取材:読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 内田淑子、沢野未来 撮影:金井尭子)

※音月さんの動画や今後の記事の更新情報などは、紡ぐサイトの公式ツイッター( @art_tsumugu)で配信します

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音月桂

プロフィール

女優

音月桂

1996年宝塚音楽学校入学。98年宝塚歌劇団に第84期生として入団。宙組公演「シトラスの風」で初舞台を踏み、雪組に配属される。入団3年目で新人公演の主演に抜擢されて以来、雪組若手スターとして着実にキャリアを積む。2010年、雪組トップスターに就任。華やかな容姿に加え、歌、ダンス、芝居と三拍子揃った実力派トップスターと称される。12年12月、「JIN-仁/GOLD SPARK!」で惜しまれながら退団。現在は女優として、ドラマ、映画、舞台などに出演している。

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