東の空が白み始めた頃、薬師寺金堂で、加藤朝胤管主(70)が本尊の国宝・薬師如来像と静かに向き合った。「身心安楽をたれさせたまえ」。心の中で薬師経を唱える。身も心も安らかに、皆が幸せに過ごせますように――。そんな願いを込めた言葉だ。
薬師如来は、薬を施し人々を病苦から救う仏様。コロナの感染拡大に伴い、像の前には「薬壺」を特別に置いている。参拝者らに医薬の仏の加護を実感してほしいとの思いからだ。
今年は重要な行事にも影響が出た。約110年ぶりの解体修理を終えた国宝・東塔で、5月に完成を祝う落慶法要を予定していたが無期延期となった。
薬師寺は天武天皇が皇后(後の持統天皇)の病気平癒を祈って建立を発願した。「皇后だけでなく、全ての民の幸せを願われたはず。そのお薬師様にお仕えするのが我々の役目」と加藤管主。古都の祈りの絶える日はない。(おわり)
(読売新聞編集委員・赤木文也、奈良支局・西田朋子、中井将一郎、写真 編集委員・河村道浩)
2020年8月22日付読売新聞から掲載
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