その柔和な表情に誰しも癒やされるだろう。古代木造彫刻の傑作とされる法隆寺の国宝・百済観音(飛鳥時代)は今夏、新しいガラスケースにおさめられた。反射率1%。ガラス越しとは思えないほど鮮明だ。
百済観音は今年3~5月に東京国立博物館で展示される予定だったが、コロナ禍のため実現せず、7月に寺に戻ってきた。ガラスケースは出展のために特別に製作されたものだ。
東京出展は、昨年10月に71歳で亡くなった大野玄妙管長が相次ぐ災害に心を痛め、人々に心のやすらぎをとの思いで決意したという。いまのコロナ禍にはどんな思いを抱くだろうか。
今年は春以降、修学旅行生を見ることもほとんどない。寺を創建した聖徳太子の精神などを市民が学ぶ恒例の夏季大学も中止となった。重厚な堂塔の並ぶ境内は静寂に包まれている。
「観音様は疫病退散も含め、広く人々の願いを聞いてくれます。ゆったりとした祈りの場で手を合わせてもらえれば」と古谷正覚・管長代務者(71)は語る。
2020年8月19日付読売新聞から掲載
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