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2023.7.31

【美をたどる 皇室と岡山・中】兵士の群像 遠近強調(岡山県立美術館主任学芸員・廣瀬就久)

皇室ゆかりの美術工芸品から、各時代、分野の名品をそろえた特別展「美をたどる 皇室と岡山~三の丸尚蔵館収蔵品より」が、〔岡山〕県立美術館(岡山市北区天神町)で開かれている。見どころを3回にわたり紹介する。

「林大尉戦死之図」
宮内庁三の丸尚蔵館収蔵
※通期展示

「 林大尉戦死之図 」

満谷国四郎
明治30年(1897年)

日清戦争で明治27年(1894年)に戦死した当時の陸軍大尉、林久實の最期の姿を描く。林は現地で死期を悟った折に、敵に軍用地図を奪われることを恐れて、口でこれを寸断し、その後割腹自殺したという。

満谷の回想によれば、林大尉の衣服に付着した血痕は、師の小山正太郎が加えたものであるという。遠近を強調した空間の広がりのなか、戦闘に参加する兵士の群像を描き込んだ。当時小山のもとで満谷も制作に携わっていたパノラマ絵画を思い起こすことができる。

明治31年(1898年)の明治美術会創立十年紀念展に出品された。会場へ行幸された明治天皇が本図の前で立ち止まられ、しばらくご覧になってお買い上げとなり、満谷の出世作となった。

(〔岡山〕県立美術館主任学芸員 廣瀬就久)


〔2023年〕8月27日まで。県立美術館(086・225・4800)。

(2023年7月30日付 読売新聞朝刊より)

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