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2022.6.15

【皇室の美】「羽箒と子犬」―作り手知らず、愛らしい子犬

「羽箒と子犬」 明治~大正時代(20世紀) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵

「日本美術史」というと少し身構えてしまうかもしれないが、名だたる作家の作品、優れているという評価を受けた作品のみが、日本美術の歴史を形づくってきたわけではないだろう。作品のモチーフや造形そのものを鑑賞して、じっくりと味わっていただきたいというのが、この夏に東京芸術大学大学美術館で開催する展覧会の趣旨の一つでもある。

今回は、貞明ていめい皇后(大正天皇の皇后)から秩父宮雍仁やすひと親王へ贈られた小品「羽箒はぼうきと子犬」をご紹介したい。

象牙を材料として造形を彫りだした「牙彫げちょう」といわれるものである。牙彫は、明治時代の初期に外国向けの輸出貿易品として一気に隆盛を見るが、そこには江戸時代からの実用的な工芸品からの流れと、そうしたものとは異なる彫刻造形へ向かっていく流れがある。

本作の場合は前者で、江戸時代に薬や小物などを持ち運ぶために使われた印籠や袋物の根付ねつけにおける彫刻の技術を置物に生かしたものだろう。

長さは約21cm、高さが約6cmで、実際よりもかなり縮小した大きさではあるが、不自然さを感じさせない。材の大きさに限りがある中で、いかに違和感なく、かつ本物らしく表現するか。こうしたところに小彫刻特有の技量が垣間見える。

それにしてもペタンと垂れた耳にトロンとした目、丸々とした身体に柔らかな毛並み。羽箒のひもを口にくわえて遊ぶ、なんとも愛らしい子犬である。制作者が不明の小品ではあるが、精巧に表されたその姿にきつけられる

(宮内庁三の丸尚蔵館主任研究官 小林彩子)

特別展 日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱
【会期】8月6日(土)~9月25日(日)
【会場】 東京芸術大学大学美術館(東京都台東区上野公園)
【主催】東京芸術大学、宮内庁、読売新聞社
【特別協力】文化庁、紡ぐプロジェクト
【問い合わせ】050・5541・8600(ハローダイヤル)
【公式サイト】https://tsumugu.yomiuri.co.jp/tamatebako2022/
 

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