日本の国土のなかの大きな点景、そしていつも日本人の心の中に一点景を占めているのも富士。なのに表現するとなるとその難しさを実感するのも富士。漆で表現する富士連作の三作目ともなった。山容、前景をレリーフにして色漆の塗かさね研出し、月と雲・霞を金箔、白金粉、金粉で表現した。
伊藤裕司(1930- )Itō Hiroshi
京都府生まれ。1953年京都市立美術工芸学校漆芸科を卒業し、山崎覚太郎に師事した。日展を主体に活動し、1966年及び1968年特選受賞、1983年会員賞を受賞し、日本現代工芸美術展でも受賞を重ねた。2004年日本芸術院賞受賞、2011年日本芸術院会員となる。色漆技法を主に蒔絵や螺鈿を併用し、心象の風景等をモチーフに明快な色使いで独特の静寂感を表わしていたが、近年は富士山や古典の麗人を艶麗なタッチでドラマチックに描写している。《赤富士》も霊峰富士のシリーズの一つで、シンプルな構図ながら、山と前景の森を薄いレリーフとし、色漆を塗り重ねた威容の赤富士と月や雲海を金箔や金粉等で穏やかに表して対照を際立たせている。京都府京都市在住。
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