日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2023.10.11

映像投影 新しい薪能に挑戦 ― 大槻文蔵「桐葵」改訂、18年ぶり再演

「10月は虫の音も聞こえるでしょうし、薪能には野趣あふれる楽しさがあります」と語る大槻文蔵=大塚直樹撮影

関西能楽界の重鎮で、観世流シテ方の人間国宝、大槻文蔵が手がけた新作能「桐葵きりあおい」が〔2023年10月〕14、15日、四天王寺(大阪市天王寺区)で開催される「スペクタクル薪能 in 四天王寺」(読売新聞社協力)で18年ぶりに再演される。同寺ゆかりの聖徳太子を主人公にした作品。境内に特設した舞台の背景に映像を投影するプロジェクションマッピングを採用する。薪能の制作・総監督を務め、聖徳太子役で出演する文蔵に見所を聞いた。

(読売新聞編集委員・坂成美保)

「桐葵」は、大坂夏の陣で豊臣秀頼を滅ぼした徳川家康に対する豊臣秀吉の恨みを聖徳太子が鎮め、2人を浄土に導くというストーリー。2005年の大阪城薪能で初演された。初演時、作家・井沢元彦が手がけた脚本に今回、文蔵が改訂を加えた。前半と後半の間の「あい狂言」に登場する家康を茂山七五三しめ、秀吉を茂山逸平が演じる。

古典の現行曲だけでなく、廃絶した演目の復曲や、新作能も数多く手がけてきた文蔵。「復曲の場合は、原作者の意図を考え、能の手法の中でいかに上演するかに心を配る。新作は縛りが少なく、自由に創作の実験ができる」と、それぞれの醍醐だいご味を語る。

聖徳太子の装束を着けた文蔵

「桐葵」では、「世阿弥が今生きていたら、どんな照明にするだろう」と想像しながら、「能の大事なところを壊さないよう、補助的に膨らませていきました」と振り返る。「一度きりではなく、再演を繰り返すことで作品はさらに練り上げられていく」という。

「能を長年見た観客が面白いと思うこと」と「初めて能を見た人がいい劇だなと思うこと」。両方の接点を探っていった。

屋外で、間口が広い特設舞台での上演。プロジェクションマッピングで、借景となる五重塔や金堂に映像を映し出し、外国人観光客も楽しめるように日本語と英語両方の音声ガイドサービスも実施する。

四天王寺で10月14・15日 スケール広がる舞台に

「大きな会場では観客が舞台に集中するのが難しい。背景を広げていけば、観客が能の世界に入り込みやすくなるのではないか。スケールを大きくする役割を映像が果たしてくれるでしょう」と、投影する映像の色味なども自ら選んだ。

両日とも午後6時半開演。ほかに天王寺舞楽など。14日は文蔵、大槻裕一らによる半能「石橋しゃっきょう」、15日は半能「土蜘蛛つちぐも」も上演される。チケットは特設サイトで発売中。(電)06・6761・8055。

会場の四天王寺では9~15日、能や舞楽の装束やおもてを展示した特別展「能と舞楽の世界」も開催される

(2023年10月6日付 読売新聞夕刊より)

Share

0%

関連記事