日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2023.10.27

日本舞踊 伝えていく責任-国の重要無形文化財に指定

西川箕乃助さん(右)と花柳基さん=帖地洸平撮影

日本舞踊が今年〔2023年〕、国の重要無形文化財に指定された。長年の業界の悲願が実を結び、「総合認定」の保持者として、56人が選ばれた。ところで、彼らと「人間国宝」とは、何が違うのだろうか。(文化部 森重達裕)

「総合認定」保持者に56人

流派超えて

重要無形文化財は、文化財保護法に基づき、演劇、音楽といった芸能や工芸技術などの「わざ」のうち、歴史的、芸術的に特に重要とされるものを国が「指定」する制度だ。無形の「わざ」を持った人物・団体を、保持者・保持団体として国が「認定」する。

芸能分野では、保持者には「各個認定」と「総合認定」の2種類がある。各個認定の保持者は、いわゆる人間国宝と呼ばれる。一方、総合認定の保持者は、「二つ以上の『わざ』で成り立っている芸能の担い手」が対象になる。そのため、総合認定と各個認定の保持者を兼ねている人も多い。

文化庁の担当官は、「能楽ならシテ方、ワキ方、狂言方、囃子はやし方と複数の専門分野で成り立っている。一方で落語、尺八など一人で成立する芸能は、総合認定の制度にはなじまない」と説明する。日本舞踊を含め総合認定の対象になる芸能は歌舞伎、人形浄瑠璃文楽など15になる=表=。

・重要無形文化財のうち「総合認定」の対象となっている芸能
雅楽/能楽/人形浄瑠璃文楽/歌舞伎/組踊/義太夫節/常磐津節/一中節/河東節/宮薗節/荻江節/清元節/長唄/琉球舞踊/日本舞踊

 

人間国宝には各自、年間200万円の特別助成金が支給されるが、総合認定では保持者が作る「団体」に対して助成金が支給される。日本舞踊は、今回新たに「日本舞踊保存会」が設立された。総合認定の対象になるためには、流派の垣根を越えて一つの団体を作る必要があったのだ。

数十年の悲願

担い手の数が右肩下がりになる中、日本舞踊が重要無形文化財になることは「数十年にわたる業界の悲願だった」と舞踊家の花柳もといさん(59)は語る。

実現に向けた活動は4年ほど前から本格化。基さんと井上八千代さん(66)、西川箕乃助みのすけさん(63)の3人が主にあたった。箕乃助さんは「これまで国は、邦楽に対応させ、『邦舞』というなじみのない言葉を使っていた。日本舞踊は国から認められていない微妙なジャンルなのかと、悔しい思いだった」と振り返る。「指定されて、日本舞踊とは何かを説明しやすくなった」とメリットを語る。

この「日本舞踊とは何か」の定義について、基さんは「文化庁とすり合わせを重ねた」と明かす。以前も何人もの日本舞踊家が人間国宝になったが、歌舞伎舞踊、上方舞、京舞での認定で「日本舞踊」としての認定ではなかった。また、組踊くみおどり、琉球舞踊などとの違いも言葉で説明する必要があった。「文化庁の考えと我々として譲れる、譲れないことのせめぎ合いで、何とか落としどころを見つけた」

もう一つの難題は、誰を保持者に選ぶかだった。様々な流派があり、選定に対する批判を避けるため、3人を含むごく少数で作業を進めた。「何となく踊りがうまいという理由では選んでいない。文化庁からは『これは顕彰制度ではない。どれほど素晴らしい舞台をされた方でも、引退した方は対象にはならない』と言われた」(箕乃助さん)

結果として、踊り手(立方)40人、三味線などの演奏家(地方じかた)16人が保持者に選ばれた。「認定された人たちは流派の枠を超えて日本舞踊を伝えていく責任がある」と箕乃助さん。保存会は今後、各流派の特徴的な作品を他派の舞踊家に伝える研修発表会を開いたり、日本舞踊の研究者との連携を強化したりする活動を進めていくという。

◇     ◇     ◇

国からのお墨付き 大きなこと

京舞の人間国宝で、「日本舞踊保存会」の会長に就任した井上八千代さん=写真=に聞いた。

ずっと前から先輩方が実現に向けて尽力されてきましたが、機が熟さなかった。多くの流派があって意見がまとまらなかった、他の芸能に比べて担い手が多く、(保持者を)選ぶ作業が難しかったことなどの理由があったかと思います。少なめの認定になったのは、まずは重要無形文化財になることが最優先と考えたからです。今回は50歳以上で線を引きました。一番上は100歳ですが、今も現役で活躍されている方です。

日本舞踊が国から認められた芸能というお墨付きを得たのは大変に大きなことです。認定された方には広く発信してもらい、日本舞踊界全体に共有していただきたいと思います。

(2023年10月25日付 読売新聞朝刊より)

Share

0%

関連記事