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2021.10.8

【新派・女優と女形4】女優と女形がしのぎを削る―それも新派の醍醐味

波乃久里子さんと河合雪之丞さんに新派の女優と女形について語ってもらう今シリーズ。最終回の4回目は、10月2日から25日まで東京・東銀座の新橋演舞場で行われている「花柳章太郎追悼 十月新派特別公演」について。『小梅と一重』で雪之丞さんが演じる「小梅」、『太夫こったいさん』で久里子さんが演じる「おえい」は、ともに新派の名女形・花柳章太郎ゆかりの役だ。 (聞き手=読売新聞事業局専門委員・田中聡)

――東京・東銀座の新橋演舞場での「十月新派特別公演」は同劇場での『八つ墓村』以来、1年8か月ぶりの新派本公演となります。今回の演目は『小梅と一重』と『太夫さん』。まず、雪之丞さんにうかがいますが、今回も女優さんとの共演舞台になりますが、どういう心持ちで舞台に臨もうと思っていらっしゃいますか。

撮影:青山謙太郎
撮影:青山謙太郎
『小梅と一重』  

雪之丞 (『小梅と一重』は)『假名屋小梅』というお芝居の一場面で、『明治一代女』と同じく「明治の毒婦」といわれた花井お梅をモデルにしたものなんです。だけど、“尽くす女”のイメージが強い『明治一代女』のお梅と、今回演じる小梅はまったく逆の性格。剃刀で衝立を突き破ったりとか、激しいところがある。実際の花井お梅さんは、短気で今でいうと「切れやすい」性格だったらしいので、小梅の方が史実に近いみたいですね。そういう雰囲気が出せれば。

『小梅と一重』假名屋小梅=河合雪之丞 ©松竹

久里子 (『小梅と一重』は)真山青果先生の脚色。先生のせりふが独特で、しゃべっていても気持ちいいでしょうね。

雪之丞 『明治一代女』の方は、川口松太郎先生の脚本ですね。そういえば、『明治一代女』でお梅の恋のライバルとなる芸者は秀吉っていうのですが、花井お梅さんは東京・新橋で芸者をしていた時、秀吉と名乗りお座敷に出ていたんですね。川口先生はそういう事実を知っていて、あえてそういう配役をしている。最近知って、ちょっと感心しましたね。おしゃれだなって。

――小梅の役は、久里子さんのお父様(十七世中村勘三郎)もおやりになっていますね。

久里子 私は旅(興行)に出ていて、実際の舞台は見てないのですが、後で映像を見て……。私は父の小梅は好きではありませんでした。(初代水谷)八重子先生が演じた一重は素敵でしたけれど……。父は花柳先生の小梅にあこがれていたのですが、「あこがれる」のと「自分でやれる」というのは違うということがよくわかりました。

――それは失礼しました。そういうお父様の舞台、あるいは花柳先生の舞台をご覧になった経験から、何か雪之丞さんにアドバイスすることはありますか。

久里子 今回は花柳先生の追悼興行ですし、花柳先生の当時の舞台写真が残っていますから、それをご覧になってあの通りやっていただけたら最高ですね。花柳先生は型がきれいなんです。歌舞伎とも新派とも何とも言えない、実にいい形をしていらっしゃる。花柳先生の映像が残っていないのが残念です。

『太夫さん』

――そうおっしゃる久里子さんは『太夫さん』に出演されます。演じられる遊廓の女将・おえいは、やはり花柳先生がおやりになっていた役ですね。

久里子 花柳先生は6回おやりになっているのですけど、私は7回目。先生の回数を超えてしまいました。超えたのは回数だけですが。藤山直美さんとは何度もコンビを組んできていますから、阿吽の呼吸でできるのが楽しいです。私は京都弁に自信があるわけでないので、直美さんは本当にやりにくいと思いますが、そこは東京での舞台ということで、大目に見ていただいて……。今回、相手役は田村亮さん。幼馴染ですから、お芝居をしていても心が通じ合うような気はいたします。

『太夫さん』おえい=波乃久里子 ©松竹

――花柳先生から、この芝居について教わったことはあるんですか。

久里子 私、昭和36年に新派に入ったんですけれど、花柳先生は昭和40年にお亡くなりになっていますから、ほとんどお芝居のことはうかがってないのです。舞台はずっと拝見していますし、私のことをかわいがってくださったんです…。父みたいな年齢差ですからね、「親戚のおじさん」みたいな感じで、今考えれば普段はあまり丁寧に接していなかった気がします。

私は新派に入る前から「八重子先生がすべて」みたいな感じで、ずっと(八重子)先生にくっついて歩いて、「マリア様」って呼んでいたぐらい。花柳先生がある日、舞台の奈落に私を呼んで、「八重ちゃんがマリア様なら、おじちゃんのことはお釈迦様ってお呼びなさい」っておっしゃったの。私もまだ20歳前だったから、「何だろう、このおじさんは」なんて思ってました。今にしてみれば、「マリア様」と「お釈迦様」にかわいがられたんだから、もう少し「お釈迦様」の言うことも聞いておけばよかったって思います(笑)

これからの新派と女形

――新派は今後も女形は必要だと思いますか。

久里子 それはもちろんです。女優と女形が舞台上で「火花を散らす」というか「お互いにしのぎを削る」のが新派の醍醐味のひとつだと私は思っていますから。女形さんの芝居って、やっぱり女優と比べると骨太なんですよ。立派、大きい。そういう芝居が新派には必要なのです。(歌舞伎で女形中心に活躍している)甥の(中村)七之助には「新派のものもやって」「新派を好きになってよ」っていつも言っているんです。

雪之丞 実際に七之助さんは『鶴八鶴次郎』を(兄の中村勘九郎さんと)おやりになっていますよね。

久里子 私、歌舞伎の家で育ちましたから、どうしても「自分の子どもを(役者として)育てる」ことにあこがれるんですよ。弟(十八世中村勘三郎)たちの家を見ていても。私自身には子供がいない。私自身が経験してきたこと、学んできたことをだれかに受け取ってほしい。そういう気持ちがあるんです。

七之助には「ふるあめりかに袖はぬらさじ」で亀遊の役をやった時、私が知っていることを全部教えたら、七之助が言ったんです。「水谷八重子先生に似ているのかなあ、僕」。どなたかに「似ている」って言われたんでしょうかね。嬉しかった。私が教えたことを通じて、八重子先生の面影が七之助に移ったんだな、と思ったら――。そういうふうに芝居を伝えていくためにも、もっと新派のことをお客様方に知っていただいて、舞台の数を増やせるようにしたいですね。

――長い時間、お二人ともありがとうございました。

(おわり)

対談の様子を動画でも!

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◆十月新派特別公演のホームページはこちら →  https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/2110_enbujyo/

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