近松門左衛門(1653~1724年)の没後300年となる今年、代表作「曽根崎心中」が人形浄瑠璃文楽とアニメーションの融合公演として初めて上演される。2025年大阪・関西万博をにらみ、海外で人気の高い日本アニメと融合させて、伝統芸能を世界に発信する狙いがある。(編集委員 坂成美保)
国立劇場を運営する日本芸術文化振興会(芸文振)が企画。遊女・お初と恋人・徳兵衛が心中に向かう
文楽公演では通常、板に山や空、樹木などの風景を描いた大道具「背景画」を使用し、場面ごとに背景を入れ替える。今回は、黒色スクリーンに映像をプロジェクターで投影。死に場所を求めてさまようお初と徳兵衛の動きに合わせて背景も動き、明るさの変化などで時間の経過も表現する。
背景の映像美術を手がけるのは、スタジオジブリ作品「となりのトトロ」「もののけ姫」で美術監督を務めた
昨年行った試演では、男女が寄り添う背後に静寂に包まれた森が浮かび上がり、2人に見える
勘十郎さんは「男鹿さんの
海外公演を視野に入れたプロジェクトでもある。通常の海外公演では、背景画は船便で送るため、輸送コストがかかり、到着が遅れるリスクもあった。折りたたみ式のスクリーンは輸送しやすく、総合プロデューサーの神田竜浩・国立劇場伝統芸能課長は「国内の地方公演にも活用できる。最新のテクノロジーを取り入れることで文楽の可能性を模索したい」と語る。
第1弾として3月23~29日、東京・有楽町よみうりホールで上演される。上演時間は解説を含め約1時間。芸文振は1月末まで、背景映像の制作費約1200万円の一部をクラウドファンディングで募っている。
〈曽根崎心中〉
1703年、人形浄瑠璃として初演。実際に起きた心中事件を劇化して、事件の1か月後にスピード上演し、大当たりを取った。〈この世の名残、夜も名残〉の名文で知られる「道行」をクライマックスに置いた斬新な構成で、歴史上の人物が登場する「時代物」が主流だった中、市井に生きる庶民の心の機微を描く「世話物」というジャンルを開拓した。
(2024年1月15日付 読売新聞夕刊より)
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