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2025.3.26

万博で創作能 観客が謡で参加

山本さんの指導を受けながら、「水の輪」の謡を稽古する参加者=原田拓未撮影

〔2025年〕4月13日に大阪市此花区の人工島・夢洲ゆめしまで開幕する大阪・関西万博では、海外からの来場者を見込んで日本の伝統芸能を紹介する様々なイベントが計画されている。観世流能楽師・山本章弘さん(64)が運営する山本能楽堂が、万博会場の大催事場「シャインハット」(EXPOホール)で上演する「いのちの能『水の輪』」(読売新聞社主催)もその一つ。環境保全をテーマにした創作能で、観客がうたいの一部を担う。今月、謡の稽古がスタートした。(大阪編集委員 坂成美保)

「いのちの能『水の輪』」稽古始まる

〈水の命は数々に〉〈尽きせぬ水こそ めでたけれ〉。3月12日、大阪市中央区の山本能楽堂に男女約70人の連吟が響いた。山本さんが脚本を手がけた「水の輪」のラストシーンの謡。浄化された水を尊ぶ詞章が並ぶ。集まったのは、読売新聞大阪本社の会員組織「わいず倶楽部」のメンバーら。山本さんが張り扇で拍子盤をたたいてリズムを取り、参加者は背筋をピンと伸ばして発声した。

能の謡の技法を解説する山本さん(2025年3月12日、大阪市中央区で)
一斉に声を出して、謡を稽古する参加者

山本さんが、水都・大阪の魅力を発信する作品として「水の輪」を初演したのは2009年。小豆島(香川県)、屋久島(鹿児島県)、大船渡市の越喜来おきらい漁港(岩手県)など各地で上演を重ね、海外でも紹介してきた。

都から難波を目指す男は、見知らぬ女性がこぐ舟で淀川を下る。女性は水神みずがみの化身で、下流にたどり着くと、川の汚れを嘆いて姿を消す。そこへ水鳥たちがやって来て川を清掃。水辺に龍神や水神が現れ、美しくよみがえった川を祝福する。

能の前半と後半をつなぐ「あい狂言」に登場する水鳥役を子どもたちが演じ、〈なんでや なんでや なんでやねん〉と、ユーモラスな関西弁のせりふで会場を沸かせる。

昨年〔2024年〕10月に大阪市中央公会堂前で上演された「水の輪」=山本能楽堂提供
鑑賞だけでなく演じる楽しみ

万博公演では約160人の子どもたちが出演し、主役(シテ)の水神を、前半は山本さん、後半は観世三郎太さんが勤める。演奏には万博のテーマ館プロデューサーで数学研究者の中島さち子さん率いる「KURAGE Band」も参加する。

山本さんは「能には鑑賞するだけでなく演じる楽しみがある。謡に参加してファンになっていただき、能の面白さを伝え広めるメッセンジャーの役割を果たしてほしい。生の声の波動を感じ、ライブの力を再確認してもらえれば」と期待を込める。

稽古に参加した大阪市内の男性(64)は「謡に挑戦することで、日本文化の素晴らしさを伝え、万博を盛り上げたい」と話していた。

公演は6月18日午後1時と4時半の2回。当日参加も可能で参加無料だが、万博の入場券が必要。稽古は4、5月にも実施される。問い合わせは読売新聞大阪本社わいず倶楽部事務局(☎ 06・6366・2338)。

能面を示しながら、「水の輪」のストーリーを紹介する山本さん

◇やまもと・あきひろ 1960年、大阪府生まれ。3歳で初舞台を踏む。父・山本眞義、観世流二十五世宗家・観世左近、二十六世宗家・観世清和に師事。能楽協会理事。受賞歴に大阪文化賞、外務大臣表彰、国際交流基金地球市民賞など。

(2025年3月26日付 読売新聞朝刊より)

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