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2023.9.17

「けれん」上等、異端児の気概―京都・南座九月花形歌舞伎「新・水滸伝」 猿翁がスーパーバイザー

役者が空中を飛ぶ「宙乗ちゅうのり」、瞬時に衣装やかつらを変える「早わり」、本物の水を舞台で使う「本水ほんみず」……。「けれん」と呼ばれるこれらの演出は、歌舞伎が見世物芸の流れをくみながら発展したことを物語る。「はったり」や「ごまかし」を意味する「けれん味」の語源にもなった。

中村隼人(いずれも撮影:永石勝)

明治の文明開化に派生した演劇改良運動は、歌舞伎から、荒唐無稽な要素を退け、高尚化を求めた。運動自体は失敗に終わるが、明治以降に、名だたる小説家らが執筆した「新歌舞伎」が、文学性や心理描写に優れているのも、その一端であろう。視覚的な奇抜さが売りの「けれん」は影を潜めていった。

戦後、「けれん」の復活と江戸歌舞伎への回帰を旗印に「スーパー歌舞伎」を創始し、ヒット作を次々送り出したのが三代目市川猿之助、9月13日に亡くなった猿翁えんおうだ。「『新・新歌舞伎』をつくろうと思った」。猿翁は、当初の志をそう振り返っていた。

文学的な「新歌舞伎」に対するアンチテーゼとして、元来歌舞伎の要素である「歌」「舞」の豊かさ、娯楽性、庶民性に立ち返り、スペクタクル満載の演出と現代口語に近いせりふで、次代への扉を開いた。

中村壱太郎
中村福之助

猿翁の名作集「三代猿之助四十八撰」の48番目の演目「新・水滸伝すいこでん」が9月、京都・南座で上演されている。中国の古典文学を題材に、宙乗りに立ち回り、スピーディーで迫力あふれる演出の青春群像劇だ。

12世紀の中国。梁山泊に集った豪傑たちの頭領・晁蓋ちょうがい(市川中車)に見込まれた主人公・林冲りんちゅう(中村隼人はやと)は、自暴自棄な生活から抜け出し、梁山泊の仲間たちとともに理想を追い求めて立ち上がる。

隼人、壱太郎かずたろう、福之助、歌之助ら花形役者の活躍を、市川寿猿じゅえん、笑也ら猿翁一門のベテラン勢が支える。林冲の教え子を演じた猿翁の孫・市川団子だんこの爽やかな口跡にも、未来の担い手としての才気が感じられる。

中村歌之助
市川 團子

「道を開いていこうじゃねぇか」と、仲間を鼓舞する晁蓋のせりふには、歌舞伎界の異端児、あるいは風雲児と呼ばれ、時には向かい風にさらされながら、ひたすら疾走してきた猿翁の闘魂が映るようだった。

(編集委員 坂成美保)

◆新・水滸伝◆ 2008年初演。北宋時代の中国。天然の要塞ようさい・梁山泊には、晁蓋(中車)を筆頭に盗賊や反乱軍が集結していた。晁蓋は、元朝廷軍の兵学校教官で、投獄中の林冲(隼人)を仲間に引き入れるために助け出す。かつては「替天たいてん行道ぎょうどう」の理想を説き、「天に替わって道を行う志を抱け」と若者に呼びかけた林冲だが、梁山泊の女親分・姫虎ひめとら(市川笑三郎)の誘いに応じず、かつての教え子にも心を閉ざしていた。

共演はほかに市川猿弥、浅野和之ら。作・演出は横内謙介、演出は杉原邦生。スーパーバイザーを猿翁が務めた。

9月24日まで、南座。19日は休演日。18、21両日の午前の部終演後には出演者によるトークショーを予定している。(電)0570・000・489。

(2023年9月13日付け 読売新聞夕刊大阪版より。一部改定しました)

市川笑也
市川中車

公演の詳細はこちら → https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kyoto/play/822

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