静嘉堂文庫美術館(東京都世田谷区)の所蔵で、江戸中期の作とされる能面が9月2日、国立能楽堂(東京都渋谷区)の舞台で使用された。美術品の保存・展示を主目的にする美術館が、舞台で使うために能面を貸し出す例はまれだ。
新発田藩(現在の新潟県北部)藩主、溝口家旧蔵の能面コレクションを、静嘉堂の設立者で能楽愛好家でもあった岩崎弥之助が約120年前に購入して以来、一般の目に触れることはなかったが、今回、同美術館の企画展で初公開されるのに合わせて貸し出しが実現した。河野元昭館長は「能面は元々は美術品ではなかった。機会があれば舞台で使ってもらっても良いのではないかと思っていた」と理由を語る。
2日の公演では能「安達原」が上演され、シテ(主役)の観世喜正さんが曲女(曲見とも)と呼ばれる、憂いの表情を帯びた女性の面を付けて舞台に臨んだ。
喜正さんは「大変きれいな状態で、舞台では(美術館の所蔵品だと)忘れていたぐらい、全く違和感がなかった」と語り、河野館長も「みずみずしく、輝いて見えた」と喜びを語った。
この曲女の面は、他のコレクションと共に2020年10月13日から12月6日まで同美術館で開催される「能をめぐる美の世界」で展示される。
(2020年9月10日読売新聞朝刊から掲載)
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