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2026.3.20

【雪と人 美の結晶 寒気と熱気 豊かな営み2】独特な文化・産業 ― 積雪期用具、雪納豆(岩手県)

雪国の人々は厳しい寒さの中で暮らしながら、時代を超えて様々な文化や技術を育み、後世に継承してきた。秋田県大仙市の真冬の風物詩「刈和野の大綱引き」は大勢の人たちの熱気に包まれる。岐阜県飛騨地方の「飛騨染」は冬の寒さにさらして独特の色を発し、青森県津軽地方の「こぎん刺し」は屋内で行う手仕事として進化した。新潟県上越市の「雁木がんぎ」は雪から歩行者を守る生活の知恵だ。雪が降り積もる各地を取材した。

独特な文化・産業 厳冬が育む

雪国文化研究所 小野寺聡さん

雪が育んだ伝統文化や、新たな雪の活用方法などについて、雪国文化研究所(岩手県西和賀町)の小野寺聡研究員(64)=写真=に聞いた。

雪国文化研究所 小野寺聡さん

雪国すなわち「豪雪地帯」は、1962年に制定された「豪雪地帯対策特別措置法」に基づき、政府が地域を指定している。その面積は国土の51%にも及ぶ。それらの地域では科学技術が発達する以前、厳しい冬を乗りきるために独特の文化が生まれた。

例えば織物。明治時代に機械式の織機が普及する以前、農村では農閑期の冬に、主に女性によって布が織られ、農家の貴重な現金収入となった。特に有名なのが、新潟県の小千谷ちぢみと越後上布。雪国特有の湿度下で織り上げ、雪にさらして仕上げる伝統技術を特色とする。国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されている。

冬に新鮮な野菜を手に入れることが難しい豪雪地では、様々な保存方法が発達した。例えば、大根やニンジンは雪が降った後もしばらく地中に残して、冬に食べるようにした。塩やみそに漬けて保存食にもした。

雪国では様々な生活用具が生まれた。「かんじき」もその一つ。靴の下に履くことで、雪に接する面積を広げ、雪にかかる体重を分散。沈み込むのをある程度防ぎ、比較的楽に歩くことができるようにした。ほかにも、そりなどの運搬用具や、体を覆って寒さから身を守る雪げらなどがある。

豪雪地の農村では相互扶助が大切だ。田植えや稲刈り、家の建築や補修、道に降り積もった雪を踏んで歩きやすくする作業などを、住民が協力して行った。厳しい自然環境下では助け合いが不可欠だった。

極寒期の伝統行事も多彩だ。その年の農作物の出来を占ったり、無病息災を願ったりする行事が多い。地域の結びつきを強める役割も果たしたのだろう。

豪雪対策と聞くと、「雪は克服すべきもの」という印象を持つかもしれないが、けっしてそうではない。雪解け水を利用して稲作が盛んな地域も多く、環境にやさしいエネルギー資源として様々な場面で雪の活用が進んでいる。

私が住む岩手県西和賀町では全国に先駆け、1989年に貯雪室を備えた農産物貯蔵施設が建てられた。貯雪室の雪で空気を冷やし、貯蔵室の農産物を冷やす。昔から伝わる雪室を現代によみがえらせたようで、まさに温故知新と言えるだろう。

現在はマンションや老人ホームの雪冷房、データセンターの雪冷却など、雪を新たなエネルギーとして活用する事例が、北海道から北陸まで200件以上ある。雪国の新たな文化として注目してほしい。

(聞き手・平山徹)

そり・かんじき 知恵絞り 「積雪期用具」(岩手県西和賀町)

豪雪地では生活の知恵と工夫により、自然条件に適応するための用具が生み出された。

岩手県西和賀町沢内の「碧祥寺へきしょうじ博物館」雪国生活用具館には、雪国ならではの衣食住や生産活動、交通・運搬、信仰・儀礼に使用された用具が展示されている。「沢内及び周辺地域の積雪期用具」として、1792点が重要有形民俗文化財に指定された。

雪上の運搬用具として馬に引かせたそり

その中でも目を引くのは、交通・運搬用具だろう。雪中の歩行具「かんじき」、積雪を踏みしめる「ふみだわら」、山から木材を搬出する「やまぞり」、薪材を積んで急斜面で使う「とば」など、雪上の木材運搬が活発だったことを物語る貴重な資料が並ぶ。

同博物館は、約400年の歴史を持つ真宗大谷派・碧祥寺の境内にあり、五つの資料館で構成。入館料は大人500円、高校・大学生300円、子ども200円。現在は冬季休館中(4月より開館)。

雪中で保温 絶妙な発酵 「雪納豆」(岩手県西和賀町)

岩手県西和賀町は、秋田県境の山間部の豪雪地帯。「雪納豆」=写真=はこの地で育まれた。町のホームページで〈伝統の技を受け継いだ方も少なく、地元でもほとんど食べることのできない……〉と紹介するように、一般販売はしていないが、納豆を味わえるチャンスはある。

作り方は、軟らかく煮た大豆をわらの入れ物に詰め、むしろで丁寧に包む。深さ約1メートルの雪穴を掘り、わらを敷く。熱湯を入れてフタをした鍋、大豆を包んだむしろの順番で雪穴に入れ、わらを上にかけて雪をのせる。数日後に納豆ができあがる。雪の中は外気より温かく、0度以下になることはないため、ちょうどよい発酵が進み、絶妙な味わいに仕上がるとされる。

地元産の山菜や農作物で加工品を作る「味工房かたくり」のスタッフ、渡辺まい子さん(48)は23年前に町へ移住し、雪納豆の存在を知った。「町のあちこちで雪納豆作りが復活したら面白いだろうな、というスタンスで雪納豆を作ってきました」と話す。2月上旬に県内外の参加者と雪納豆作りに挑戦し、出来上がった納豆を味わったという。

(2026年3月1日付 読売新聞朝刊より)

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