
楽器は材料を確保し、職人が多岐にわたる工程を経て製作する。雅楽の楽器「
篳篥 」に欠かせないヨシを古くから供給してきた大阪府高槻市では、持続可能な保全の仕組みを整える活動が始まった。一方、伝統ある邦楽を衰退させないよう、苦しい状況でも三味線製造に取り組む業者や、手軽に始められる三味線の開発を行う会社もある。邦楽器だけではなく、歴史ある洋楽器の保存に熱意を持つ人たちも活動を続けている。各地の動きをリポートする。

宮中の儀式や神社仏閣の祭典などで披露される日本古来の雅楽。主旋律を演奏することの多い縦笛「

篳篥は、ヨシを削って作る吹き口「
10月初旬、4~5メートルに成長したヨシは、青々とした葉を伸ばし、先端には麦色の穂をつけていた。ヨシ原は約75ヘクタールの広さだが、手入れされているのは1%ほどで、蘆舌に使えるヨシはわずかしかとれない。
ヨシ原の維持管理を行う「

ヨシ原の維持には、刈り取りや火入れといった人による作業が必要で、2月頃に実施するヨシ原焼きのほか、春から夏にはヨシの生育を妨げないよう草取りが欠かせない。手入れされている区画では、まっすぐ上に向かってヨシが伸びるが、手が入らない場所では、ヨシにツル性植物が絡まり倒されていた。違いは一目瞭然で、手入れの必要性を物語っていた。
2020年、21年は新型コロナウイルスなどの影響でヨシ原焼きができず、22年に収穫できたのは約200本にとどまった。例年、宮内庁楽部に500本を届けてきたが、それさえまかなえなかった。危機的な状況に、有志が資金を出して手入れを始めたが、作業を継続していくことが課題となった。
今年6月、雅楽の普及・発展に取り組む「雅楽協会」と地元の維持管理団体、高槻市、オブザーバーとして文化庁と国土交通省が参加するコンソーシアムが設立された。来季からは定期的な除草作業が行われる。木村さんは「地域の宝であるヨシを、これからどう維持するかが重要」と語った。
一方、雅楽協会は、地元住民に雅楽の魅力を知ってもらおうと、演奏会の開催にも力を入れている。







実演家減 邦楽器売り上げ低調 - 職人の高齢化も
高齢化による実演家の減少や趣味の多様化に伴い、三味線や鼓などの邦楽器の売り上げは低調だ。全国邦楽器組合連合会の調査によると、1970年に販売された三味線は1万8000丁だったが、2017年には3400丁に減少した。日本芸能実演家団体協議会に加盟する団体の会員のうち、00年に2万2132人だった邦楽の実演家は、23年には1万804人に落ち込んだ。
一方、楽器製造に携わる職人の高齢化で、技術の継承も課題となっている。能楽や歌舞伎などの囃子 に使う小鼓や大鼓は、麻をより合わせた綱の「調べ緒」を張り、締め具合で音色を調節する。しかし、調べ緒を作る職人はごくわずかで、多く作ることはできない。合成繊維の調べ緒を使うことが増えているという。
「伝統芸能の殿堂」である国立劇場(東京都千代田区)では、邦楽の演奏会や、邦楽器奏者が伴奏する日本舞踊の舞踊会が数多く行われてきた。しかし、建て替えのため23年10月に閉場しており、邦楽関係者にとって貴重な発表の場が、失われた状態になっていることも痛手だ。
国は、邦楽器の製作技術の継承などが危機的な状況にあるとして、21年度から「邦楽普及拡大推進事業」に取り組んでいる。その一環として国がメーカーから三味線や箏 など邦楽器を買い上げ、高校や大学の部活動やサークルに無償で貸し出す支援を続けている。
(2025年11月2日付 読売新聞朝刊より)
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