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2025.7.17

【檜皮葺き屋根 職人技と美意識 1】善水寺本堂(滋賀県湖南市)― 葺き替え工事 間近で見学

巨大な素屋根のもとで本堂の屋根に檜皮を葺く屋根葺士ら=平山徹撮影

寺院や神社の一部の建造物には、ヒノキの皮でいた屋根があります。檜皮葺ひわだぶき屋根です。日本固有の職人技と美意識が凝縮された貴重な文化遺産と言うべきものです。2020年には国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産にも登録されました。今月〔2025年7月〕の「紡ぐプロジェクト」特別紙面は、最高級の屋根とされる檜皮葺きに焦点をあて、その魅力や技術継承の課題などを探ります。

檜皮葺きとは… ヒノキの皮重ねて葺く 2020年、ユネスコ無形文化遺産に
檜皮葺きとは、ヒノキの皮を重ねて屋根を葺く工法だ。なだらかな部分に使う檜皮のサイズは一般に長さ約75センチ、厚さ約1.5ミリ。檜皮葺きの建物は、立地条件や屋根の形状によって差はあるものの、30~40年で傷みが大きくなるため、その都度、葺き替え工事を行っている。
檜皮葺きによく似ている屋根に「こけら葺き」がある。板葺きの一種で、サワラ、スギなどの薄い割り板(厚さ約3ミリ)を重ねて葺くものだ。厚さの違いで「とち葺き」(同1~3センチ)などの名称がある。柿葺きは檜皮葺きと同じく入念に施工された仕上がりは優雅で、繊細な上品さが漂う。
ススキやアシなどの草を使うのが「かや葺き」。一般民家や茶室などに用いられた。
国宝・重要文化財に指定されている建造物は5532棟(2025年3月1日)。2019年3月の調査によると、このうち檜皮葺きは823棟、柿葺き・栩葺きは369棟、茅葺きが408棟。総棟数の約3割がこれらの伝統的な屋根葺き工法によって維持されている。
20年には「檜皮葺・柿葺」「茅葺」「檜皮採取」「屋根板製作」がユネスコ無形文化遺産として登録された。

善水寺本堂(滋賀県湖南市)
工事に入る前の善水寺本堂=同寺提供

滋賀県湖南市の善水寺では現在、本堂(国宝、室町時代初期)の檜皮葺き屋根が葺き替え工事の真っ最中だ。同市観光協会が専用の見学用足場を設置し、檜皮の葺き替え作業を間近に見ることができる貴重な場所になっている。

善水寺は和銅年間(708~715年)、鎮護国家の道場として草創されたと伝わる古刹こさつ。本堂は1360年に火災に遭い、66年に再建された。内部は外陣(礼拝者のための空間)と内陣(本尊などをまつった最も奥の空間)を分けた密教本堂形式。本尊の薬師如来坐像ざぞう(重要文化財、平安時代)をはじめ約30体の仏像を安置する。

50年ぶり

直近の葺き替え工事は1976年。約50年が経過し、「平葺き」と呼ばれる広くなだらかな部分は、ほぼ全面にわたって腐朽が進んでいた。特に正面中央部分は傷みが激しく、鉄板を貼って風雨をしのいでいた。

今回の保存修理事業は2024年度からの2か年計画。檜皮屋根の葺き替えをはじめ軒や柱、扉などの破損箇所を修理する。24年度に耐震診断を行い、耐震補強は不要であることが判明。現在は屋根葺士ふきしらが丹念に葺き替えを進め、新たな檜皮の面が広がりつつある。

梅中堯弘住職(64)は「本堂は約660年、本尊など仏像は1000年以上、先人たちが守り続けてきた。現在は人口減少社会で、これらの文化財を守ることが年々難しくなっている。今回の葺き替えの様子を多くの人に見てもらい、文化財保護への関心を持ってもらえたら」と話す。

檜皮屋根葺き替え工事見学 10月31日まで

善水寺本堂の檜皮屋根葺き替え工事見学は10月31日まで受け付けている。大人2500円、中・高・大学生2000円(拝観料、案内料を含む)。湖南市観光協会の電話(0748・71・2157)またはホームページから申し込む。

檜皮の葺き替え工事中の善水寺本堂(滋賀県湖南市)で軒先を確認する梅中堯弘住職

(2025年7月6日付 読売新聞朝刊より)

湖南市観光協会(善水寺檜皮葺屋根葺き替え工事特別見学)

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