日本人は漆を古くから利用してきた。縄文時代には、主に接着剤として。その後、特有の光沢と耐久性のある塗装材料として建造物や工芸品に用いられてきた。漆や漆器の長期にわたる需要減少、近年の「国産漆」の供給不足など課題はあるが、その美しさや手触り、素材の持つ奥深さは多くの人を魅了し続けている。
漆は縄文時代から盛んに利用されており、各地の遺跡からは漆塗りの土器や木製品が多数出土している。中でも東京都東村山市の下宅部遺跡では、樹液採取から製品加工までの一連の工程を示す遺物が見つかっている。縄文時代後期(約4300~3400年前)における漆生産の一大拠点といえる重要な遺跡だ。
同市の文化施設「八国山たいけんの里」では、同遺跡で出土した漆関連の遺物が展示されている。漆掻きをした傷が樹皮に生々しく残る木は、今と同様の樹液採取の技法が縄文時代にもあったことを示す。
赤色漆塗り土器は約300点も出土している。東村山ふるさと歴史館学芸員の千葉敏朗さん(63)は「赤は生命力を感じさせる色なので、縄文人に好まれたのでしょう」と話す。糸や樹皮を巻いた後、漆で塗り固めた木製の弓は耐久性に優れ、折れにくい高性能な製品だ。このほか、漆で装飾された櫛やヘアピンなど、多彩な漆製品が出土している。
同遺跡は地下水の豊富な低湿地にあり、漆製品も良好な状態で土中に保存されてきた。千葉さんは「土の中から見えた赤漆の鮮やかな光沢が忘れられません」と発見時の思い出を話す。同遺跡の出土品は国重要文化財にも指定されており、縄文時代に花開いていた漆文化を今に伝えている。
(2024年12月1日付 読売新聞朝刊より)
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