日本人は漆を古くから利用してきた。縄文時代には、主に接着剤として。その後、特有の光沢と耐久性のある塗装材料として建造物や工芸品に用いられてきた。漆や漆器の長期にわたる需要減少、近年の「国産漆」の供給不足など課題はあるが、その美しさや手触り、素材の持つ奥深さは多くの人を魅了し続けている。
日本一の漆の里として知られる岩手県二戸市の浄法寺地区で〔2024年〕10月20日、「浄法寺漆共進会」が行われた。今年採取された漆が一堂に集められ、その品質を審査する年に1度の会で、46回目を迎えた。
樹木としての「ウルシ」から、その樹液と樹脂の混合物である「漆」を採取する作業を「漆掻き」と呼ぶ。漆掻き職人は6月から10月にかけて山に入り、ウルシの木に傷を付け、染み出た漆を掻き取る。
漆は採取時期により、初辺、盛辺、末辺と分類される。水分を多く含み、下地に向く初辺、つやがよい盛辺など性質が異なる。共進会会場には、漆を入れた樽が約60個並び、採取時期別に審査された。
40年以上前から審査に携わる漆芸家、町田俊一さん(73)によると、当初は職人ごとに、取れた漆の粘度や色、匂いなど品質には相当な違いがあったという。だが、共進会で漆を見せ合うことで均質化が進んだといい、「一定の役割は果たした。今、共進会はお祭りのようなものです」と町田さんは語る。
実際、会場には漆掻きに励む職人たちの写真が魅力的に飾られていた。また、金山昌央さん(29)が漆掻きを実演。漆が固まる性質をかさぶたに例えるなど、分かりやすく伝えていた。愛知県出身で、海外でのボランティア活動を経て3年前から漆掻きに従事する金山さん。「日本の文化を支えている気持ちになれる」とやりがいを語っていた。
浄法寺地区の漆掻き職人はかつて300人いたと言われるが、漆の需要減少などによって激減。2014年には19人にまで落ち込んだが、日光などの建造物の修理のために漆の供給を増やす努力が進められ、現在は20~30歳代の8人を含む35人に増えた。林野庁の調査によると23年、岩手県の漆生産量は全国の80%を占めている。
(2024年12月1日付 読売新聞朝刊より)
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