2022年度の「紡ぐプロジェクト」修理助成事業は、新たに重要な国宝や重要文化財など6件が対象に決まった。このうち京都・乙訓寺蔵の仏像を紹介する。
重文 毘沙門天立像 (京都・乙訓寺蔵)
甲冑を身につけた仏教の守護神・毘沙門天は、怒りの表情を浮かべていることが多いが、乙訓寺の像は、眉をひそめた憂いある表情から「幽愁の毘沙門天」との異名を持つ。
穏やかな顔立ちは平安時代後期の作にみられる特徴だ。その頃、京都を中心に活躍した仏師たちの作風を典型的に表している。
全身を覆う造立当初の彩色や文様は、今も良好な状態で残る。甲冑や衣の部分には、細く切った金箔を貼る「截金」の文様が様々に施されており、その種類の多さや彩色に使われた顔料の質の高さは特筆に値する。
ただ、像の各所で彩色が浮き上がり、表面はひび割れも進行中で、一部では剥落が始まっている。貴重な彩色層を失わないためにも対策が求められており、修理は、全体の汚れを落とした後、彩色や截金などに剥落止めを行う。左手に載せた宝塔や、光背、台座も修理する予定だ。
乙訓寺住職の川俣海雲さん(50)は「収蔵庫で正面からいつも見ていたが、そんなに傷んでいるとは気づかなかった」と語る。
2019年、専門家に調査、点検してもらったところ、背中の部分を中心に状態が悪く、「早急に修理の必要がある」と言われたという。
乙訓寺は平安時代、高僧の空海と最澄が初めて出会ったと伝わる古刹。境内では4年前の台風被害の修理が続いており、資金確保が課題だった。
「修理の緊急性が認められて選んでいただき、驚くとともに大変感謝しています」と表情を緩めた。
(2022年1月9日読売新聞から)