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2025.6.5

【修理リポート】国宝「智証大師関係文書典籍」(滋賀・園城寺蔵)― 消し跡や朱書きも発見・保存

修理では、虫食いの穴に合わせて補修紙を補う作業が進められた=坂田墨珠堂提供

滋賀・園城寺おんじょうじ三井寺みいでら)の国宝「智証大師関係文書典籍」(93通、文書典籍目録6通)のうち、「国清寺こくせいじ 外諸寺求法惣目録ほかしょじぐほうそうもくろく」「三弥勒経疏さんみろくきょうしょ(上、中、下)」の計4点が、3年にわたる修理を終えて、寄託先の奈良国立博物館(奈良市)に戻った。

「智証大師関係文書典籍」は、平安時代の高僧・智証大師円珍(814~891年)が唐に渡る際の記録などが含まれ、2023年5月に国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)「世界の記憶」に登録された。

修理中は、奈良国立博物館の研究員らによる専門委員会が計7回開かれた。巻物の表紙や軸を解体したり、以前の修理で文書の裏側から当てられた裏打ち紙を外したりして詳しく調査したところ、文字をこすって消した跡や朱書きなどが見つかり、それらを保存できるよう、同委員会で修理方法について慎重に検討を重ねた。本紙の状態は安定しており、安全に取り扱えることから、新たな肌裏打ちは施さないこととした。

園城寺では、ほかの史料についても修理を続けており、福家俊彦ふけしゅんげん長吏(66)は、「今後も所有者自らが関わり、より素晴らしい修理にしたい。1100年以上守り継がれており、現在の私たちに課せられた使命は大きい」と思いを語った。

(2025年6月1日付 読売新聞朝刊より)

修理前(写真上)は縦方向の折れが目立っていた「三弥勒経疏 上」。修理後(写真下)は折れがなくなった

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