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2021.5.13

【20年度修理完了品から④】空海への思い、鮮やかに~国宝「後宇多天皇宸翰 弘法大師伝」

過去の修理で施された補修絹を取り除く作業などを行った

紡ぐプロジェクトがスタートして4年目。貴重な文化財の修理が進む一方で、公開も進んでいる。修理を終えたもの、これから修理を控えたもの。所蔵元や展覧会に足を運び文化財に直接触れることも、文化財を保存し後世に伝える後押しとなる。

2020年度修理完了品のリポート4回目は、空海への思いが伝わる天皇直筆の国宝書跡を紹介する。

国宝「後宇多ごうだ天皇宸翰しんかん 弘法大師伝(絹本)」(京都・大覚寺蔵、鎌倉時代・1315年)

国宝「後宇多天皇宸翰 弘法大師伝(絹本)」(京都・大覚寺蔵)

大覚寺(京都市)所蔵の国宝「後宇多天皇宸翰 弘法大師伝(絹本)」は、大覚寺中興の祖で仏法の興隆に尽力した後宇多天皇が、鎌倉時代の正和4年(1315年)に書き写した弘法大師空海の伝記だ。寄託先の京都国立博物館(同市)にある文化財保存修理所で、1年がかりの修理が完了した。

後宇多天皇は空海を尊敬し、自らも真言宗の僧侶として修行を積んだとされる。絹本には、天皇自ら空海の伝記類から選んだ文章が40行にわたって墨書されている。楷書から力強い草書に変化する書風にも、空海の影響が見られるという。

修理は1935年以来、85年ぶり。多数の横折れが発生しており、絹や墨が欠けた部分もあった。

<BEFORE 修理前>
多数の横折れが発生しており、絹や墨が欠けた部分もあった
<AFTER 修理後>
本紙と同じ黄色味のある茶色の肌裏紙を貼ることで、本来の墨線の色調が感じられるように

最も重要な作業は、絹地のすぐ裏側にある肌裏紙はだうらがみの交換だった。修理前は赤茶色だったが、修理を担当した修美(同市)が大覚寺とともに、絹地とより調和する肌裏紙の色調を検討。古い肌裏紙を除去し、矢車やしゃの実などで染めた美濃紙で2層にわたり肌裏打ちを行うと、墨文字が鮮明に浮かび上がった。

慎重に進められた修理作業

横折れが激しい部分は、細く切った楮紙ちょしを裏から貼り付けて支えた。昔の修理で補った絹の一部や墨の部分は、文字の判読に支障がないと判断し、除去した。

修理を終えた国宝に向き合い、手を合わせた大覚寺の岡村光真執行は「きれいに直していただき、感謝したい。弘法大師さまへの熱い思いを込めて書かれた一文字一文字が100年後、200年後にも継承される修理をしていただいた」。修美の大野恭子技師長は「書かれた当時の姿にできるだけ戻すように心がけた」と作業を振り返った。

10月8日から大覚寺で開催する「秋季名宝展」に展示される予定だ。

(2021年5月2日読売新聞より掲載)

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後宇多天皇の筆跡、後世へ 大覚寺・国宝 修理施設に | 紡ぐプロジェクト (yomiuri.co.jp)

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