日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2025.1.8

【最善の修理 最高の技術で1】国宝「八大童子立像」(和歌山・金剛峯寺蔵)

2025年度「紡ぐプロジェクト」修理助成事業

2025年度の「紡ぐプロジェクト」修理助成事業には、能登半島地震の被災地、石川県から初めて申請があった。重要文化財「不動明王坐像ざぞう」(法住寺蔵)だ。滋賀県から申請があった重要文化財「石山寺多宝塔柱絵」(石山寺蔵)は、国宝建造物に描かれた絵画を現地の建物内で修理する、紡ぐプロジェクトとしては初の取り組みとなる。貴重な文化財を未来に伝えるため、困難なケースであっても最善の修理方法を検討し、現代の最高水準の技術で作業を進めていく。

金剛峯寺所蔵の不動明王坐像とその眷属けんぞく(従者)、八大童子は同寺不動堂に伝わった。不動堂は1197年(建久8年)に高野山一心院谷に建てられ、八大童子立像はこの時に仏師・運慶により造られた。

8体のうち恵光えこう童子、恵喜えき童子、烏倶婆誐うぐばが童子、清浄比丘しょうじょうびく童子、矜羯羅こんがら童子、制多伽せいたか童子の6体がその時の作(像高はいずれも100センチ前後、一木造りや寄せ木造り)で国宝。精気にあふれ気品に満ちた顔立ち、若々しく弾力に富んだ肢体、一瞬の動きを捉えた見事なバランスなど、運慶の彫刻的才能が存分に発揮された像と言われる。指徳しとく童子と阿耨達あのくた童子は南北朝期の制作で、6体と合わせて国宝に指定されている。

6体は運慶円熟期の傑作で、童子形彫像の数少ない大型作品であることから、様々な展覧会企画でリストアップされ続けている。しかし出品のたびに修理を要する箇所が見つかり、応急修理が繰り返されてきた。

部分的な応急修理が続くと、各部の強度のバランスが悪くなり、損傷を進行させる恐れが指摘されてきた。このため、南北朝時代の制作とみられる残る2体を含め、全ての像を本格修理し、安定した状態を取り戻すことに決めた。

また、重要文化財の不動明王坐像も併せて、修理助成対象となった(国宝・重文併せて「1件」)。像高約87センチ、ヒノキ材の割りぎ造り。不動堂の創建に先立つ12世紀半ば頃の制作で、院政期の一流仏師による繊細優美な作風だ。しかし、各所に浮き上がりが生じており、剥落はくらく止めなどの保存修理が急務となっている。不動明王と八大童子の修理は3年計画で進める。

文化財「地域の宝」として守っていく

◇ 横内裕人・京都府立大教授(日本中世史)、「紡ぐプロジェクト文化財維持・修理助成事業」選考委員の話

 2019年度から始まった「紡ぐプロジェクト」の文化財修理助成は、来年度新たに助成対象となった7件を加えて計50件となった。愛知県からも初の申請があり、全国的な広がりを感じる。
 近年の文化庁の方針でもあるが、文化財は地域で保護することが重要だ。所蔵者だけに任せるのではなく、檀家だんかや地域住民と連携して「地域の宝」として守っていく。東日本大震災のときも、地域の核になっていた文化財が、復興のよりどころとなった。
 祭りや法要などで年に1回、皆でお参りする。そのともしびを絶やさないことで、地域の復興が可能になる。そうした意味でも地域の文化財修理に助成する意義は大いにある。助成対象に選ばれたことが、地域全体の機運を盛り上げる展開につながればいいと思う。
 新聞紙面を通じて、修理や公開の様子を知らしめていくことも大切だ。可能な限り広く伝えることで、読者も「支えていこう」という気持ちになってくれるのではないか。
 25年度で50件ときりもいいので、たとえば展覧会など、まとめて見ていただく機会を作ってはどうだろうか。

(2025年1月5日付 読売新聞朝刊より)

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