「紡ぐプロジェクト」が2019年度から修理を行う文化財8件が正式決定した。緊急性が高い中から、今回は皇室とのゆかりなども考慮し、絵画、彫刻、工芸、書跡から2件ずつ選んだ。選考委員会の根立研介委員長(京都大教授)は「多額の修理費用が捻出できない所蔵者も多く、地方自治体の財政も逼迫しているため、民間助成に厚みが増すのは喜ばしい」と話す。
修理対象作品を紹介する。
鎌倉仏画の傑作。往生者のもとに阿弥陀如来と菩薩が飛雲に乗って降下して来る情景だ。前回修理から約85年が経過し、横折れや絵の具の剥落が進んでおり、絹の裏の肌裏紙を取り換える。画面の描写も鮮明に見えるようになるとみられる。
白い象に乗る菩薩の麗しい輪郭を従来の朱ではなく墨の線で描く。奥深い彩色と極細の金箔を貼った「截金文様」は美麗だ。しかし、絹や絵の具の傷みが著しく本格的な修理を行う。「日本絵画を代表する作品で研究者もかなり注目する事案」とは増記隆介委員(神戸大准教授)。近年の調査で、截金文様の周辺では従来指摘されなかった表現が見つかっており、修理の過程で技法解明のヒントが得られる可能性もあるという。
白檀を用いた鎌倉時代の三尊像。かつては宮中に安置されて天皇の仏事の本尊とされた。精緻な截金文様が浮き上がっており、「定着させるミクロ単位の修理」(文化庁)になる。
鎌倉時代の快慶作の2像。深沙大将像から見つかったお経「宝篋印陀羅尼」は断片化しており、丁寧に開いてつなぎ合わせる。
日本最大の古代刀で刀剣史上極めて重要なもの。刀身・拵の制作は奈良~平安時代にまで遡る。劣化が見られる拵の漆地や金具を処置し、刀身の保存を図るために白鞘も調製する。
前田利家所用と伝わる桃山時代の陣羽織。武将が鎧の上に着た陣羽織は奇抜な意匠も競われ、屈強な「鍾馗」をあしらう。金銀の摺箔による華やかな装飾だが、刺繍の針孔から亀裂が生じており、断裂部などを改善する。
室町時代末期~桃山時代に在位した正親町天皇の自筆の文書。皇子、皇女の養育に関わる事柄を書いたもの。料紙の横折れが著しく、表具にも虫の穴が多く生じた深刻な状況で、修理の緊急性が極めて高いとされた。
平安時代に入唐した最澄が道邃から授かった伝道文の写しとされる。「最澄こそは天台大師(智ギ)の再来」という内容。解体して補強する。横内裕人委員(京都府立大教授)は「古文書は、目に見えないような記号や符号が、墨ではなく爪や楊枝のようなもので押しつけて書かれてもいる。繊細な修理作業が必要だ」と話す。
(2019年3月8日読売新聞朝刊より掲載)
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