文化庁、宮内庁、読売新聞社が推進する「紡ぐプロジェクト」の修理事業で、天台宗総本山・比叡山延暦寺(大津市)が所蔵する重要文化財「道邃和尚伝道文」が6月6日、修理技術者に引き渡された。宗祖・最澄が中国の正統な教えを受け継いだことを示す古文書だが、傷みが激しかった。関係者は「宗祖の教えの正当性を示す大切な宝」と期待している。
最澄は804~805年に唐に留学。6世紀の高僧・智ギ(智者大師)が開いた天台宗の教学について、中国天台第7祖の高僧・道邃に学び、日本へ伝えた。
同伝道文(縦約25センチ、長さ約82センチ)は、道邃が最澄に授けたとされる古文書。「智者大師は入寂に際して『自分の滅後200年あまり後、仏法興隆のため再び東国に生まれる』と遺言されたが、最澄こそ智者大師の再来だ」などの内容が書かれている。最澄が道邃に学んでいた貞元21年(805年)3月の日付が入るが、実際は、平安時代前期(9世紀)の写しとみられる。
現在は巻物状だが、約9センチ幅で縦方向に紙が折れ、等間隔に虫食い跡もあることから、当初は折っていたらしい。後世、本紙の裏に別の薄紙(裏打ち紙)を貼るなどし、巻物状に変えたとみられる。だが、経年変化による劣化が進行。特に、本紙と伸縮や厚みなどが異なる裏打ち紙を施したことで、折れの部分が著しく傷み、擦れて文字が薄れるなどしている。
修理では裏打ち紙を取り除き、本紙1枚の状態に戻す。墨の剥落止めや虫食い部分の補修などを行い、来年3月末までに終える方針。
延暦寺国宝殿の宇代貴文学芸員は「2021年には宗祖の1200年大遠忌も控えており、修理はありがたい」と話し、修理を担う「光影堂」(京都市中京区)の大菅直社長は「唯一無二の大切な宝。確実に次世代へ伝えるため最善を尽くす」と応じた。
(読売新聞大津支局 渡辺征庸)
(2019年6月7日読売新聞朝刊より掲載)
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