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2019.10.25

【修理リポート】早来迎X線調査終了 阿弥陀如来と菩薩で描き分けが判明

文化財の修理にあたっては、使用された絵の具や金属など素材の成分を分析し、 損傷箇所などをこれ以上痛めないよう、適切な技法や素材を吟味して用いることが求められる。 だが、汚れや退色により絵の状態を肉眼で確認するのは限界があるため、本格的な修理作業を行う前にX線を使った光学調査が行われることがある。

国宝「阿弥陀あみだ二十五菩薩来迎ぼさつらいごう図」(早来迎はやらいごう、14世紀)の修理でも、絵の構造や使用された絵の具の成分などを調べる透過X線調査と蛍光X線調査が、京都国立博物館(京都市東山区)で行われた。

透過X線調査は、スキャナーのような大型の機械を使用。照射域(縦約32センチ、横45センチ)に絵を少しずつ移動させ、約15秒間撮影。画像はすぐにパソコンの画面上に映し出され、修理を担当する光影堂の修理技術者や博物館の担当者らが熱心にのぞき込んで確認した。

早来迎を箱から取り出し、光影堂の技術者らが慎重に機械にセットする
早来迎は縦145.1センチ、幅154.5センチ。照射域を確認し、途切れないよう少しずつ絵を動かして撮影した

肉眼では不鮮明に見える部分から、截金きりかねの壮麗な模様が映し出されると「すごく細かい作りだ」と驚きの声が上がった。欠失している部分や後世に補った部分は白く浮かび上がり、「過去に修理されていた部分をそのまま残すか、取り除くか、所蔵する知恩院(京都)や文化庁などに確認する必要がある」などと話し合っていた。

撮影後、スクリーンに映し出された「西方浄土」の部分(拡大)
博物館の保存科学担当者と修理技術者らが撮影画像を前に話し合う
撮影でわかったことを細かくメモする光影堂の小島知英技術長

蛍光X線調査は、修理室内にショットガンのような形をした機器を持ち込んで行われた。絵の具の成分を調べるため、照射ポイント(直径3ミリ)の角度などを調整しながら、約90か所を撮影した。

機器の調節を行う技術者ら。 知恩院職員も様子を見守る
機器のモニターには検出した成分が表示される
撮影箇所を記した小島技術長のメモ

「銅の成分が出たから、ここは群青ぐんじょうが使われているのでは」「カルシウムの値が高いところは、胡粉ごふん(貝殻を使った顔料)が用いられているのでは。鎌倉時代は比較的使用例が少ないので、後世に補修が行われたのかもしれない」。機械の画面に表示された成分と絵を交互に確認しながら、技術者らが分析した。

後世に修理された阿弥陀の顔の部分が、CT画像では白く浮かび上がる

今回の光学調査で、周囲に描かれた菩薩の衣の文様は金泥きんでいで描かれる一方、中央の阿弥陀如来の衣の文様はすべて截金で表現されていたことなどがわかった。

菩薩の装束に施された細やかな模様

同館の大原嘉豊・保存修理指導室長は、「描かれた当初は、 截金 のよりメタリックな光の反射で、阿弥陀様が輝いて見えたに違いない。鑑賞効果を計算し、截金という、より高度な技法を阿弥陀仏に用いることで仏の格の違いを表していたことが調査からわかった。細部まで計算されて描かれており、この絵画のすばらしさを改めて感じた」と話していた。

(読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来)

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