2021.8.24

【原材料のいま①】希少な自然素材、守り抜く~補修絹や手漉き和紙

絹本絵画の掛け軸の欠落部分に合わせて補修絹をひとつひとつ丁寧に貼って修復していく。補修絹の原材料の絹布、生糸は年々、調達が難しくなってきている(東京都渋谷区の半田九清堂で)=青山謙太郎撮影

国宝、重要文化財など日本の美や歴史を伝える貴重な美術品の修理、保存作業に必要な原材料が、生産者の高齢化、後継者不足のため、年々、調達が難しくなっています。修理を支える技術者と生産者の現状と、支援に乗り出した文化庁の「文化財のたくみプロジェクト」を紹介します。

和紙・絹・木材 生産者の奮闘

紙や絹、木など繊細な素材で作られている日本の絵画や仏像、書跡などの美術工芸品。経年による劣化で文化財の価値が損われてしまうことを防ぐためにも、定期的な修理は欠かせない。

課題は修理に必要な用具・原材料の確保だ。文化庁は支援の強化に乗り出したが、地道な修理作業に関わる業界の奮闘は続く。

古文書の裏打ちなどに使う手漉き和紙。厚さ、ムラなどを点検する(東京都渋谷区の半田九清堂で)=青山謙太郎撮影

例えば、絵画の修理に必要な手漉き和紙の原材料、コウゾやトロロアオイは、生産者の減少などにより入手が難しくなってきている。

そんな中、壁やふすまなどに描かれた障壁画の修理を手がける国宝修理装潢そうこう師連盟は「文化財が持つ情報並びに文化財が持つ価値を減じない」「保存上および鑑賞上妨げにならない材料で補修・補填ほてんする」などの方針を掲げており、安易な代替品の使用を避けるようにしている。

同連盟の山本記子・代表理事は「材料の確保と人材育成は文化財修理の両輪。業界に将来性がなければ、文化財修理を志す若者の意欲にも応えられなくなり、官民挙げて課題を解決する必要がある」と訴える。

同連盟所属の半田九清堂(東京都)では、絵画に使われたのと同じ原料の紙、太さや目の詰まり具合などが出来るだけ近い絹などを調達し、電子線で作品の経年劣化に合わせた工夫をするなど、科学の力も援用しながら、必要な原材料確保に苦心している。

刷毛板 
刷毛の製造を行う田中重己さん(右)、宏平さん親子(千葉県習志野市で)

「かつては関東だけで約50人いた刷毛はけ職人も、今では自分の所だけになってしまった」

小林刷毛製造所(千葉県習志野市)の刷毛職人・田中重己さん(79)は嘆く。馬や山羊やぎなどの毛を用いた伝統的な刷毛を製作。用途によって動物の毛を使い分ける繊細な製品は修理ののり付けなどに活用される。だが、生活の洋風化で掛け軸やふすま、障子などの表具が少なくなり刷毛の需要も減っている。毛を挟む「刷毛板」の生産者も減った。

「刷毛板を作る職人がいなくなれば、刷毛生産はさらに厳しくなる」。父・重己さんの後を継ぐ宏平さん(47)は危惧する。

尾州檜 

仏像修理などを担う公益財団法人美術院 国宝修理所(京都市)の陰山かげやま修所長は、良質な「尾州檜びしゅうひのき(木曽檜)」の確保が難しくなったと言う。直径60センチ超の大径木は、伝統的な「一木造」の仏像の修理や、その手法を学ぶための模造に欠かせないが、近年は市場に出回る数も減り、値段も高騰している。

「一人前になるのに10年かかる世界。材料が手に入らないと、修理ができなくなるばかりか、昔の技術や道具を追体験する模造を通して技術を磨く機会も減ってしまう」と先行きに危機感を抱く。

(2021年8月22日読売新聞から)

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