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2021.6.28

盗難の文殊菩薩坐像の台座、復元へ 山口・興隆寺

山口市大内氷上の興隆寺から約20年前に盗まれた、文殊菩薩坐像もんじゅぼさつざぞうの台座を復元するプロジェクトが始まった。山口大の教授らが、寺に残っている対の普賢菩薩坐像の台座を参考に、同じ木材や塗料をできるだけ使い、風合いを合わせる。2022年夏頃の完成を目指している。

寺は室町時代の守護大名・大内氏の氏寺とされる。寺によると、坐像や台座は、江戸時代のものとみられ、作者は不明。文殊菩薩坐像の台座は、獅子の姿をした「獅子台座」と、岩を模した「岩座」に分かれていた。

市原住職が作った台座に置かれている文殊菩薩坐像

2001年、山口県内の神社仏閣を狙った広域窃盗団によって両坐像と、文殊菩薩坐像の台座が盗まれた。窃盗団は逮捕され、両坐像は戻ってきたが、台座は行方不明のまま。文殊菩薩坐像は、市原修俊おさむ住職(76)が手作りした応急の台座に置かれ、以来約20年間、そのままになっていた。

市原住職(左)から説明を受ける馬場さん(中央)と上原教授

今年4月、市原住職が兼務する萩市の南明寺の仏像修復を手がけた彫刻家でもある上原一明・山口大教授(55)が興隆寺を訪れ、坐像と台座が不釣り合いな状況を見て復元を提案。国宝や重要文化財の彩色調査や復元を手がける宇部市在住の日本画家、馬場良治さん(72)も加わり、プロジェクトチームを発足させた。

台座ににかわを塗る馬場さん(前列左)と、様子を見守る上原教授(後列中央)

22日には、馬場さんらが普賢菩薩坐像の台座や岩座を調べた。今後の調査に向け、剥落はくらく防止のために和紙越しにアルコールで溶いたにかわを塗布していった。

馬場さんによると、松の木の彫刻に和紙を貼り、その上に彩色する江戸時代の技法が使われており、群青や朱色が鮮明に残っているという。

なくなった獅子台座や岩座の資料は存在していないため、上原教授らが作風を似せて復元する計画。馬場さんは、古く見えるよう彩色する。

上原教授は「自分ができることで喜んでもらえるならうれしい」と話し、馬場さんは「長年、民衆があがめた貴重なもの。できるだけ忠実に再現したい」と力を込めた。

(読売新聞山口総局・後藤敬人、2021年6月24日朝刊山口県版より掲載)

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