2020.12.3

【関西寺社特別拝観リポート 奈良・正暦寺】錦の里におわす秘仏の白鳳仏

ライターのいずみゆかさんが、奈良や京都を中心に、寺社の特別拝観などをリポートします。初回は奈良市の正暦寺しょうりゃくじ。秘仏と紅葉の美をお楽しみください。

錦秋に秘仏との出会いを

近鉄奈良駅から車で約30分、奈良市と天理市の山間に佇む菩提山真言宗の大本山、正暦寺。深山幽谷の趣があり、山内を流れる菩提仙川のせせらぎの音を聴きながら進むと、三千本を超える紅葉の織りなす風景が広がる。この地は、古くから「錦の里」と呼ばれている紅葉の名所だ。

山内を流れる清流・菩提仙川

ここにおわすご本尊が秘仏「薬師如来倚像」(重要文化財)。小ぶりで像高38センチ、金銅造の白鳳仏(飛鳥時代後期)で、踏み割り蓮台の上に左右の足を置き、台座に腰かけた「倚像いぞう」という珍しいお姿が目を引く。

ご本尊の秘仏「薬師如来倚像」(正暦寺提供)

普段は厨子内に安置されており、春・秋の特別公開と12月22日「冬至祭」の年3回御開帳される。いまはまさに秋の特別公開中。12月6日まで本堂で参拝することができる。

紅葉の中にたたずむ正暦寺本堂。秋の特別公開のみ、本堂でご本尊の秘仏「薬師如来倚像」が御開帳される
1000年を超す歴史をひもとく

同寺は、992年(正暦3)年、一条天皇の勅命により創建され、堂塔・伽藍を中心に86坊の塔頭を誇る一大宗教都市だった。古文書学を学び、寺に伝わる古文書などから「正暦寺一千年の歴史」(非売品)をまとめた大原弘信住職は、寺がこの地に創建された理由について話してくれた。

古文書を調べ「正暦寺一千年の歴史」を著した大原弘信住職

「藤原氏の氏寺・氏神様である興福寺・春日大社の隣に造った巨大な宗教都市が正暦寺だったのです。当時は敷地が150万坪以上あったからね。藤原氏の子弟で政争から離れた者を僧侶にし、興福寺に入れていたけれど、キャパオーバーをおこして、正暦寺をつくって彼らをプールする意図があったのです」

「だから、ここ(福寿院客殿)は、奈良なのに京都のお寺みたいでしょう? 京都の藤原家から皆ここに来たので、借景も楽しめるし、屋根は檜皮葺ひわだぶき、こけら葺き、瓦葺きの3つある贅沢な造りなんですよ」

福寿院客殿(重要文化財)からの借景が美しいことで知られる(福寿院客殿内は撮影禁止)

そして特別公開中のご本尊の由来については、江戸時代の禅僧、百拙ひゃくせつ元養げんようが82歳の時、当時残っていた古文書から同寺の歴史について記した「和州菩提山寺龍華樹院記」に書かれているという。その中でインド(大陸)から請来した像という寺伝に触れ、「一条天皇が藤原道長に命じて寺を建立する地を探させた際に、(道長が)山々を徘徊してついに薬師を獲た」とあるそうだ。

もしも寺伝が本当なら、大陸で制作され日本にもたらされた像(白鳳仏)は、朝廷か興福寺が保持しており、正暦寺開基の際にご本尊として賜ったものなのかもしれない。

今年完成した展望台「龍神平」から望む福寿院客殿と紅葉。二つの山に囲まれており、大原住職は「二つの峰は龍の尾で、ここは2匹の龍が守る須弥山(しゅみせん)(古代インド仏教で、仏教世界の中心にあるとされる)に見立てられているのだと生まれてから60数年経ってやっと気づいたんです」と笑う
寺の歴史も次世代へ

寺は1180(治承4)年、平重衡による南都焼き討ちで全山焼失。1218(建保6)年に興福寺一乗院大乗院住職・信円僧正により再興され隆盛を極めるが、江戸時代以降は衰退の一途をたどった。現在は、福寿院客殿(重要文化財)と本堂、鐘楼を残すのみだ。

2018年(平成28年)に内装を一新した本堂。仏師・上本慶舟氏が新たに造立した薬師如来像や修理が完了した平安時代の日光・月光菩薩像も安置されている

明治の頃には、2度にわたり仏像や寺宝の盗難もあり、2度目のときにはご本尊まで盗難にあった。しかし奇跡的に寺に戻り、いまもお姿を目にすることができる。

弧を描いた瞳で正暦寺の栄枯盛衰を見続けてきたご本尊と、古文書解読を続け、寺の歴史を次代に伝える大原住職。錦の里でぜひお二人に出会ってほしい。

境内には日本酒発祥の地を表す碑もある
<菩提山真言宗大本山 正暦寺>

住所:奈良市菩提山町 157番地
TEL:0742-62-9569(正暦寺事務所)
拝観料:500円
秋季特別公開(2020年)
11月3日(火)~12月6日(日)まで(9時~17時)16時30分受付終了
※福寿院・本堂の建物内からの撮影機器(カメラ・スマホ等)を使用しての撮影は禁止

アクセス
●JR奈良駅、近鉄奈良駅からタクシー、またはレンタカー利用で約30分
(収容台数約70台/駐車料金500円)
●秋の紅葉シーズンはJR奈良駅と近鉄奈良駅から、奈良交通の臨時バスが運行
※秋季特別公開時以外は、正暦寺への直行バス運行なし
●年中行事の際は、奈良交通バス天理行で「窪之庄南」で下車し、正暦寺からの迎えの車あり(詳しくは要問合せ)

秘仏公開情報
●春季特別公開 (毎年4月18日~5月8日) 瑠璃殿(正暦寺収蔵庫)にて
●秋季特別公開 (毎年11月初旬~12月初旬) 本堂にて
※御開帳の日程は毎年前後するので注意
●冬至祭 (毎年12月22日) 瑠璃殿にて

URL:http://shoryakuji.jp/

いずみゆか

プロフィール

ライター

いずみゆか

奈良大学文化財学科保存科学専攻卒。航空会社から美術館勤務を経て、フリーランスライターに。関西のニュースサイトで主に奈良エリアを担当し、展覧会レポートや寺社、文化財関連のニュースなど幅広く取材を行っている。旅行ガイド制作にも携わる。最近気になるテーマは日本文化を裏で支える文化財保存業界や、近年復興を遂げた奈良県内の寺院で、地道に取材を継続中。

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