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2026.3.20

【雪と人 美の結晶 寒気と熱気 豊かな営み5】家のひさし 連なる12キロ -「雁木がんぎ」通り(新潟県)

建物1階の軒から張り出し、その下が通路となる雁木。各家庭の所有のため、高さにばらつきがある

雪国の人々は厳しい寒さの中で暮らしながら、時代を超えて様々な文化や技術を育み、後世に継承してきた。秋田県大仙市の真冬の風物詩「刈和野の大綱引き」は大勢の人たちの熱気に包まれる。岐阜県飛騨地方の「飛騨染」は冬の寒さにさらして独特の色を発し、青森県津軽地方の「こぎん刺し」は屋内で行う手仕事として進化した。新潟県上越市の「雁木がんぎ」は雪から歩行者を守る生活の知恵だ。雪が降り積もる各地を取材した。

家の庇 連なる12キロ
総延長日本一 雁木通り(新潟県上越市)

国内有数の豪雪地帯・新潟県上越市高田地区は、日本一の長さを誇る「雁木通り」がある城下町だ。雁木は、道路に面した建物1階の軒からひさしを長く張り出し、雪や雨をよける雪国ならではの伝統的な構造物。同地区の町並みに沿って雁木が連なり、総延長約12キロに及ぶ。歩行者はその下を安心して通行できる。

新潟県上越市高田地区の「雁木(がんぎ)通り」。雪が降っても安心して歩くことができる

「雁木はそれぞれの家の敷地の上に延びている。各家々が私費を投じて造り、維持管理費も負担してきた。私有地内をいつでも誰でも自由に通行できるようにしたのが雁木の文化です」。地元の呉服店の6代目で、雁木の保存・活用を呼びかける小川善司さん(77)は説明する。

雁木が初めて造られたのは江戸前期と伝わる。1666年2月に大地震が発生し、高田城下全体が壊滅的な被害を受けた。雪壁に阻まれて火災から逃げられなかったり、屋根からの落雪の下敷きになったりして、犠牲者が増えたとされる。このため、城下町の復興にあたっては、雪への対策が講じられ、町家に雁木が整備されるきっかけになった。

雁木は、新潟県をはじめ、東北から山陰まで日本海側の各地に広く分布するが、雁木を造らない家も増えてきた。その背景には、中心市街地の空洞化や降雪量の減少など様々な要因があり、高田地区でも建物が取り壊されて雁木が途切れ、まるで歯が抜けたような光景が見られる。「車の駐停車に不便」と邪魔者扱いされることもあるという。

一方で、雁木を歴史的・文化的景観として捉え、まちづくりに生かそうという動きが広がる。高田地区ではこの20年余りの間に、市が中心市街地の染物店だった町家を買い取って観光施設として活用したり、個人を対象に雁木を造る整備費用を補助したりするなどの取り組みが進んでいる。

雪を避けて雁木の下を歩く住民

小川さんら同地区の有志たちは、「雁木通り」が将来、「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されることを目指す。雁木通りは住民が約350年間守り続けてきた風景で、小川さんは「譲り合いや助け合いの心が形になった雪国の知恵の結晶。先人たちが築いた歴史的資産を生かしたまちづくりの機運をさらに高めたい」と力を込めた。(平山徹)

(2026年3月1日付 読売新聞朝刊より)

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