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2025.4.11

【伝統文化×デジタル・NFT】工芸品3Dスキャン 本物保証

人の手によって紡がれ、人から人へと伝えられてきた伝統の美や技は、デジタルとは縁遠い印象があるかもしれない。しかし、デジタルの持つスピードや拡散力は、伝統を担う現場の人材不足や発信力の弱さを補い、その魅力を幅広く伝えることもできる。「伝統文化×デジタル」は、大きな可能性を秘めている。

デジタル上のデータは複製が容易なのが長所だが、反面、偽造も横行するなどの短所ともなりうる。そこで、近年注目されているのが、NFTというデジタルデータ。「Non-Fungible(置き換えられない) Token(しるし)」の略で、複製ではないと証明されたデータのことだ。有効な資産として取引も活発になっている。

工芸品を3Dスキャンしている様子

「ARTerrace(アーテラス)」(東京都中央区)という企業は、このNFTの特長を、工芸の価値を高めるために活用している。陶芸、漆芸、人形などの人間国宝ら著名作家の作品情報を、いわば「NFTの台帳」に記録する形で作品を販売する。台帳には作品名や作家名に加え、寸法などを3Dスキャナーでデータ化した情報が記録され、作品が二つとない本物であることを証明する。

同社の藤野周作社長は「工芸は、一つの作品を制作するのに何年もかかることがある。その価値をしっかり、未来へとお伝えしなければいけない」と語る。

骨董こっとう品は、その歴史的価値から高値で取引される一方、真贋しんがんの判断が難しい場合がある。同社の取り組みは、現代の名工の作品であることを証明するデータを改ざんができない状態で記録することで、次世代の人々がその価値を理解し、安心して手にすることができる仕組みといえる。

NFTに記録された改ざん不可能な作品情報=ともにARTerrace提供

同社のサイトは、約60人の著名作家の作品が並ぶデジタル美術館の側面を持ち、作家の経歴、思い、制作の様子も知ることができる。作品の購入に関しては、売約済みのものもサイト上に残り続ける点がユニーク。作品が継続的に鑑賞され、評価され続けることが目的で、コレクター間で作品を売買する二次流通もサイト上で可能となっている。藤野社長は「利用者は購入者としてだけではなく、理解者・継承者として作品と深く関わることができる。作品の価値を高め、工芸のファン層の拡大にもつながる」と語る。

同社は、船舶投資ファンド「アンカー・シップ・パートナーズ」の関連会社で、客船「飛鳥2」船内で展示されている工芸品も、サイト上で購入できる。

(2025年4月6日付 読売新聞朝刊より)

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