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再現模造「瑠璃小尺 瑠璃魚形」

2023.8.29

天平装束を飾る「瑠璃小尺 瑠璃魚形」― 正倉院ガラス製宝物 初の再現模造お披露目

4色のカワイイ魚型、そして、緑と黄の定規のようなもの。6点ともガラス製なのですが、何だと思いますか?

令和4年(2022年)3月に完成した正倉院宝物模造品(再現模造)「瑠璃小尺るりのしょうしゃく 瑠璃魚形るりのうおがた」が2023年7月26日、宮内庁正倉院事務所(奈良市)でお披露目されました。

再現模造「瑠璃魚形」について説明する宮内庁正倉院事務所・保存課整理室の山片唯華子・主任研究官

これらは、奈良時代のファッションアイテムで、当時の貴族や役人が唐の習俗に倣い、実用と装飾を兼ねた「佩飾具はいしょくぐ」として、キーホルダーのように腰帯にり下げていたものです。

同事務所・保存課整理室の山片やまがた唯華子ゆかこ・主任研究官は「小尺は、携行用小型ものさしに由来し、魚形は、宮廷に出入りする際の許可証(門鑑もんかん)が装飾品化したものと考えられています」と説明します。

最新科学技術による調査研究成果を踏まえ、名工の技によって、原宝物と同じ材料、技法、構造、保存環境で忠実に再現する「正倉院宝物再現模造事業」は昭和47年(1972年)より、同事務所主導で行われています。災害など万が一の事態に備えるとともに、いにしえの技術を学び、継承するためのものでもあります。その事業のなかで、ガラス製宝物の模造制作は今回が初めてです。

正倉院宝物といえば、コバルトブルーのガラスつき瑠璃坏るりのつき」やササン朝ペルシアなどのガラス器に広く用いられたカットガラス「白瑠璃碗はくるりのわん」といった美しいガラス製品をイメージすることも多いため、少々意外な気がします。

正倉院のガラスを代表する4カラーの再現に成功

「ガラス製の原宝物を非破壊のまま成分比率などを分析するのは難しいため、再現模造制作は難易度が高いのです」と山片さん。

緑と黄の小尺は鉛ガラス製、魚形9点のうち、濃緑色、浅緑色、黄色の3点は鉛ガラス製、碧色へきしょく1点は、アルカリ石灰ガラス製です。今回、正倉院のガラスを代表する4カラー(濃緑色、浅緑色、黄色、碧色)をどれだけ再現できるかがポイントでした。

左が原宝物の瑠璃魚形、右が再現模造の瑠璃魚形の画像

この度の再現模造は、古代ガラスの復元や素材調合なども行うガラス工芸家で、倉敷芸術科学大学の迫田岳臣さこだたけおみ・主任技術員が2年かけて制作。過去に破損した正倉院のガラス玉の分析結果をもとに原宝物に色を寄せることに苦心し、最初の1年間は、何度も試作が行われたそうです。

正倉院のガラスを代表する4カラー(右から濃緑色、浅緑色、碧色 、黄色)
マットな仕上がりが特徴

さらに、今回の再現模造制作によって、原宝物がどのように作られたのか、制作過程がある程度、想定できるようになりました。

山片さんは、「原宝物の表面に削り出しによって出た大小様々な気泡が多数見受けられることから、量産できる型を使用する方法ではなく、止め冷まし技法でガラスの塊を制作し、そこから削り出す技法で制作しました。特に碧色ガラスは、当時の日本では素材として作れなかったため、おそらく塊で輸入されたものと考えられます。正倉院にもガラスの塊が残っているので、削り出しと考えられるのでは」と説明します。

再現模造「瑠璃小尺」 

鉛ガラスや削り出しなど、現代のガラス技法ではあまり使われない技が使われていたようです。

特徴に関しても、「原宝物にはかなり研磨痕が残っているため、現代のガラスのようなピカピカの表面仕上げではなく、少しマットな(光沢がない)仕上がりです。皆さんがイメージする透明感があるガラスとはちょっと違います」と、現代との違いについて説明がなされました。

宮内庁正倉院事務所の飯田剛彦所長(右)と山片主任研究官
「奈良時代の装束 理解が深まる」

なぜ今回の再現模造「瑠璃小尺 瑠璃魚形」が制作されたのでしょうか? 同事務所の飯田剛彦いいだたけひこ所長は、「昭和に制作された腰帯の模造や平成に制作された刀子の模造があるため、将来的にはワンセットでの展示もありえます。当時の人々がどのような装束を身に着けていたか理解が深まると思います。(約1300年も守り伝えられてきたため)原宝物は大変脆弱ぜいじゃく。再現模造の意義は、脆弱な原宝物の代わりに展示の役割も担っています」と力を込めました。

原宝物の「瑠璃小尺」の画像
第75回正倉院展(10月28日~11月13日)での展示はなし

奈良時代の聖武天皇ゆかりの正倉院宝物を納めている宮内庁正倉院事務所の「西宝庫」は、かつて宝物を納めていた校倉造あぜくらづくりの正倉院正倉(国宝)と同様に、今も天皇の勅封ちょくふうにより管理されています。

年に一度、天皇の勅使立ち会いのもと、宝庫の封が解かれる「開封の儀」(令和5年10月4日)から、再び宝庫が封じられる「閉封の儀」(同年11月30日)までの約2か月間の開封期間中、同事務所の職員達が約9000件もの宝物すべてを点検確認し、外部有識者を交え、特別調査や宝物模造事前調査などをおこなっています。

その開封期間中に、毎秋、奈良国立博物館(奈良市)で約2週間にわたり正倉院展が開催され、約60件の原宝物をることができるのです。今年の第75回正倉院展(10月28日~11月13日)では、今回の再現模造の展示はありませんが、いつ観ることができるのか、今後が楽しみですね。

正倉院展公式サイト

いずみゆか

プロフィール

ライター

いずみゆか

奈良大学文化財学科保存科学専攻卒。航空会社から美術館勤務を経て、フリーランスライターに。関西のニュースサイトで主に奈良エリアを担当し、展覧会レポートや寺社、文化財関連のニュースなど幅広く取材を行っている。旅行ガイド制作にも携わる。最近気になるテーマは日本文化を裏で支える文化財保存業界や、近年復興を遂げた奈良県内の寺院で、地道に取材を継続中。

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