文化財の継承を考える上で避けて通れないのが、災害との闘いの歴史だ。真言宗総本山・東寺(教王護国寺、京都市南区)に残る「木造四天王立像」は約90年前の火災で激しく焼損しながらも、修理を経て重要文化財に再指定された。背景には貴重な文化財を守り残そうとする人々の思いがあった。
平安時代から東寺の
窮地を救ったのは修理技術の進展だった。火災から60年余りがたった1993年から4年がかりで、炭化した表面が崩れないよう特殊な樹脂で固めて補強する修理が施された。何かを付け足すのではなく、現状をありのままにとどめようという考え方で実施された。
それから約20年後、現地調査をした文化庁主任文化財調査官の奥健夫さんは、像が安定した状態で保たれていることを確認。「これなら指定を復活させても良いのではないか」と提案し、2018年に重要文化財の再指定が実現した。
「日本らしい彫刻様式が確立する転換期だった平安時代の特徴をとどめており、造形としても価値が高い」と奥さんは評する。宇多太上天皇が最初に拝んだという約1100年前から、ずっと人々のまなざしを受けてきた像を後世に伝えたい――。その思いが再指定につながったといってもいいだろう。
「京の国宝」展は、焼損した四天王像の腕と手首のほか、食堂の本尊だった国宝「木造千手観音立像」に納められていた
四天王像は今も東寺の食堂に安置され、一般の人も参拝できる。
(2021年7月4日読売新聞から)
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