鮮やかな配色と斬新なデザインが目を引く武将たちの服飾類は、異国文化が流入した戦国時代から近世初期の雰囲気を伝える。上杉謙信らゆかりの服飾類の修理には時間を要したが、見事に美しくよみがえった。その技術を詳報するとともに、歴史の息吹を伝える。
日本や東洋の染織品を所蔵する東京国立博物館の専門家に、戦国武将の衣装の見どころを聞いた。
同館の小山弓弦葉調査研究課長(53)=写真=は日本東洋染織史が専門だ。「繊維の脆弱性ゆえに、戦国から江戸初期にかけての武将の衣装は残っているもの自体が限られる」と希少性を指摘する。現代に伝わる品は、伝来が比較的定かである場合が多いという。「信長や秀吉が着ていた、あるいは家康から拝領したなどの伝来を根拠に大切に保管されてきた」という数少ない衣装が、時代の荒波を越えて生き延びてきた。
「他人が着ていないものを着ることがステータス」
モダンでオシャレなデザインに目を奪われるが、武将たちの一番の関心事は権力の誇示にあったという。「他人が着ていないものを着ることがステータスだった。その意味で舶来の素材を使っていることがものすごく重要だった」
例えば、同館が所蔵する猩々緋の羅紗の陣羽織のひとつは、関ヶ原の戦いで東軍に寝返った小早川秀秋の所用と伝わるもので、鮮やかな深紅色に染めた厚地の毛織物を使っている。毛織物は欧州からの貴重な輸入品だった。さらに、実戦に臨んだ武将たちにとって機能面でも優れた点があった。「動物の毛で出来ているので水をはじく。野戦で雨風を防ぐ目的もあったようです」
ほかにも戦国武将の衣装は名物裂と呼ばれる舶来の絹織物を使ったり、中国の官服やヨーロッパの上着を鎧下着に仕立てたりと、斬新さが光る。
同館は戦国武将の衣装を8点所蔵。織田信長が着ていたと伝わる陣羽織などの名品がそろう。戦国から江戸時代の武家の衣装は、2か月に1度の展示替えをしながら紹介。「衣装には、武将の性格やファッションセンスがよく表れている」といい、じっくり鑑賞すれば彼らの新たな一面を発見できるかもしれない。
(2024年7月7日付 読売新聞朝刊より)
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