鮮やかな配色と斬新なデザインが目を引く武将たちの服飾類は、異国文化が流入した戦国時代から近世初期の雰囲気を伝える。上杉謙信らゆかりの服飾類の修理には時間を要したが、見事に美しくよみがえった。その技術を詳報するとともに、歴史の息吹を伝える。
「紡ぐプロジェクト」の染織品の修理助成事業では、前田育徳会(東京都目黒区)所有の重要文化財「刺繍菊鍾馗図陣羽織」の修理も、2019~21年に行われている。
戦国武将の前田利家が羽織ったと伝わる桃山時代の陣羽織。利家が著名な「末森の陣」に着用したとも伝わる由緒ある作品で、正妻の芳春院(まつ)の細工であるとも言われる。前面に菊の花、背面に魔よけの神とされる鍾馗がデザインされている。
金銀の摺箔による華やかな装飾だが、刺繍の針孔から亀裂が生じるなどの劣化が見られた。このため、19年に修理を開始。京都市内の2業者が担当し、京都国立博物館の文化財保存修理所などで、いったん陣羽織の表裏を解体して、布の裏側から薄い和紙を貼り、絹をかぶせて補強し、仕立て直す作業などを行い、21年に修理が完了した。
(2024年7月7日付 読売新聞朝刊より)
0%