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2024.7.10

【戦国の世 生き抜いた染織品を守る1】謙信らゆかりの服 よみがえる

金銀襴緞子等縫合胴服きんぎんらんどんすとうぬいあわせどうふく

鮮やかな配色と斬新なデザインが目を引く武将たちの服飾類は、異国文化が流入した戦国時代から近世初期の雰囲気を伝える。上杉謙信らゆかりの服飾類の修理には時間を要したが、見事に美しくよみがえった。その技術を詳報するとともに、歴史の息吹を伝える。

白地雲竜平絹彩色陣羽織しろじうんりゅうへいけんさいしきじんばおり
上杉謙信
(上杉神社所蔵)
修理が完了した「金銀襴緞子等縫合胴服」について話す上杉家17代当主・上杉邦憲さん(左端)、上杉神社の角屋由美子さん(左から2人目)、修理を担当した松鶴堂の依田尚美さん(右端)ら
上杉謙信を祭神として米沢城本丸跡に建てられた上杉神社

劣化した繊維 状態に合わせ修理

 
■ 斬新なデザインも

戦国武将・上杉謙信らゆかりの重要文化財「服飾類」(室町時代~桃山時代)を巡り、「紡ぐプロジェクト」で進められてきた修理が、2023年度で完了した。〔2024年7月〕13日から、上杉神社(山形県米沢市)で順次、公開が予定されている。

「服飾類」は謙信と、米沢藩初代藩主・上杉景勝が使用したと伝わる88点(付属品を含むと98点)で構成されている。このうちの4点が19年度から、5か年の修理助成事業の対象となった。繊維の劣化が進む服飾類に対し、京都国立博物館文化財保存修理所(京都市東山区)で、それぞれの生地の状態に合わせた修理が進められてきた。

黄地平絹流水梅扇面描絵胴服(修理前)

(左)修理方針の話し合い(2020年8月)
(右)修理前は、きれの劣化や糸の絡まりが激しい状態だった

黄地平絹流水梅扇面描絵胴服(修理後)

修理を担った松鶴堂の依田尚美さん(左)が、上杉神社の角屋由美子さん(左から2人目)、上杉家当主の上杉邦憲さん(左から3人目)に修理のポイントなどを解説した(2024年3月)=飯島啓太撮影
繊細な線で描かれた模様も、美しく浮かび上がった

光沢のある黄色の表地が目を引く「黄地平絹流水きじへいけんりゅうすい梅扇面ばいせんめん描絵胴服かきえどうふく」は、裏地の損傷が非常に激しかった。このため、繊維を保護し、劣化を防ぐために覆うきれを選ぶ協議から始まった。裏地を保護する裂の色は、修理後も透かして裏地の状態が見えやすいように、白を基調とすることに決定。中綿に絡みついたり、束になったりしていた緯糸よこいとを時間をかけて一本一本整えた後、修理品に合わせて特別に作られた裂が、縫い付けられた。

金銀襴緞子等縫合胴服

金銀襴緞子等きんぎんらんどんすとう縫合胴服ぬいあわせどうふく」は、16種の舶来の裂をパッチワークのように縫い合わせた斬新なデザインの小袖だ。繊維が傷付いていたり、裏打ち紙からはがれ落ちていたりした部分があり、接着するか裂をあてて補修する必要があった。主に損傷が激しい茶色の裂は、小麦でんぷんのり布海苔ふのりを混合した接着剤で、はがれた部分を再接着するなどした。それ以外の箇所についても、補修用の裂を糸で縫い付け、状態を安定させた。

茶地竹雀丸紋綾片身替胴服

濃淡の茶色が交互に織られた小袖「茶地ちゃじ竹雀丸紋たけにすずめまるもん綾片身替胴服あやかたみがわりどうふく」は、1964年の修理で補修用の裂があてられていた。しかし、特に濃茶の表地の裂が弱っており、はがれが目立っていた。このため、最小限の解体を行った上で修理する方針が決定。主にほつれた襟の部分の補修と、濃茶部分の裂を糊で再接着する作業が進められた。

白地雲竜平絹彩色陣羽織

白色の表地の背面に緑や青、赤など鮮やかな岩絵の具で雲と竜を描いた「白地しろじ雲竜平絹彩色うんりゅうへいけんさいしき陣羽織じんばおり」も、64年に修理されている。陣羽織の形状は保たれていたが、竜の彩色部分が経年劣化していたため、にかわや糊を使って剥離はくり剥落はくらくを防ぐ処置が行われた。

■「500年保存は奇跡」 

最終年度となる2023年度は、将来の保管方法なども念頭に置いた仕上げが行われた。3月18日には同博物館に関係者らが集まり、報告会を実施。修理を担った松鶴堂(京都市東山区)の依田尚美・染織担当課長(51)が、上杉家17代当主の上杉邦憲さん(81)らに、修理のポイントを解説した。

依田さんは、「修理者として大変、貴重な経験をさせていただいた。残りが良い服飾を無理に解体すると損傷してしまう。傷んでいない部分はなるべく手をかけず、関係者の方と協議しながら必要な作業を進めさせていただいた」と語った。修理期間中にはコロナ禍もあり、修理方針を対面で話し合うことができなかった苦労も振り返った。

邦憲さんは「謙信公・景勝公が愛用した服飾類を後世に伝えることができ、本当にありがたい。500年も形を保って残されてきたのは奇跡。今回の修理を機に、上杉家の服飾類の素晴らしさを多くの人に知ってもらいたい」と話していた。

特別展示 13日から

重要文化財「服飾類(伝上杉謙信・景勝所用)」の修理完了を記念した特別展示が〔7月〕13日から上杉神社稽照殿で始まる。服飾類4点の展示期間は次の通り。

白地雲竜平絹彩色陣羽織」7月13日(土)~同31日(水)。
黄地平絹流水梅扇面描絵胴服」8月2日(金)~同20日(火)。
茶地竹雀丸紋綾片身替胴服」9月12日(木)~10月8日(火)。
金銀襴緞子等縫合胴服」10月10日(木)~同29日(火)。11日午後は休館。

それぞれの展示期間には修理外の服飾類をはじめ、謙信、景勝、鷹山関連の甲冑かっちゅう、刀剣、陶磁器、絵画、古文書など収蔵品の展示がある。

入館料は一般700円、高校生・大学生400円、小学生・中学生300円。

問い合わせは同神社社務所(0238・22・3189)。

(2024年7月7日付 読売新聞朝刊より)

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