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2021.11.12

歴史的文書の保存めざすユネスコ「世界の記憶」候補に国宝など2件…2023年登録へ 

文部科学省は10日、歴史的文書などの保存を目的とする国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」の国内候補に、「浄土宗じょうどしゅう大本山だいほんざん増上寺ぞうじょうじ三大蔵さんだいぞう」(重要文化財)と「智証大師ちしょうだいし円珍えんちん関係かんけい文書典籍もんじょてんせき-日本・中国のパスポート―」(国宝)の2件を選んだと発表した。今月末までにユネスコに申請書を提出し、2023年の登録を目指す。

浄土宗大本山増上寺三大蔵(浄土宗、大本山増上寺提供)

「増上寺三大蔵」は、17世紀初頭に徳川家康が全国から収集し、浄土宗の大本山である増上寺(東京都港区)に寄進した木版印刷の仏教聖典で、現代の仏教研究の基礎になっている。

智証大師円珍関係文書典籍(園城寺提供)

「円珍関係文書典籍」は平安時代に中国・唐に渡り、密教関係の経典などを日本にもたらした智証大師・円珍が持ち帰った通行許可書などの文書群だ。滋賀県の園城寺(三井寺)などが所蔵し、一部は東京国立博物館(東京都台東区)で開催中の特別展「最澄と天台宗のすべて」で展示されている。

「世界の記憶」は、15年に中国が申請した南京事件に関する文書が登録され、16年に日中韓などの民間団体が慰安婦関連資料を申請したことなどから政治的中立性が問題視され、17年から新規申請を中断していた。加盟国が異議を申し立てられる制度新設などの改革がなされ、申請を再開した。

ユネスコ登録に期待 「9世紀の古文書が現代に伝わったのは奇跡的」

大津市の園城寺(三井寺)ゆかりの智証大師円珍(814~891年)に関する古文書が、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」の国内候補の一つになった。

円珍が留学先の中国・唐の役所から交付された通行許可書「過書かしょ」も含まれる。過所は、当時の原本が現代まで良好に保存された世界唯一の例とされ、園城寺は「9世紀の古文書が現代に伝わったのは奇跡的で世界に誇れるものだ」と登録に期待している。

円珍は比叡山延暦寺で修行し、渡唐。天台宗祖・最澄が学びきれなかった密教を会得した。帰国後は比叡山の別院として三井寺を中興、発展させた。

今回の古文書は、円珍が唐で入手した経典目録や自筆の遺戒(遺書)など多彩な内容で全て国宝。中でも過所は、唐の交通制度や法制、日中間の文化交流史を考える上で貴重な原本だ。

2015年には、過所のみで国内候補に応募して落選した経緯があるが、今回、東京国立博物館が所有する古文書も併せて「智証大師円珍関係文書典籍―日本・中国のパスポート」として申請したことで、幅広く価値が認められたとみられる。

候補に選ばれたことについて、園城寺の福家俊彦長吏は10日、「京都や奈良に比べて滋賀は地味に見えるが、世界に誇れる歴史文化を育んだ。その素晴らしさを世界や地元に再認識してもらうためにもユネスコの登録を期待する」と話した。

(2021年11月11日読売新聞朝刊より)

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