重要伝統的建造物群保存地区制度が創設半世紀となり、選定保存地区は全国43道府県127地区に広がった。最初に選定された岐阜県白川村の合掌造りの山村集落は、日本を代表する観光地になった。富山県高岡市は江戸、明治時代から続く三つの保存地区で住民がそれぞれの特性を生かしたまちづくりを進める。ただ、災害に弱い木造建築が多く、後継者不足も深刻で、保存・継承には課題が多い。能登半島地震で大きな被害を受けた石川県輪島市の黒島町の現状と、企業の提案で新たなまちづくりに着手した長野県塩尻市の奈良井もあわせて紹介する。
1976年9月、重要伝統的建造物群保存地区に選定されたうちの一つ。山あいの比較的平らな場所に合掌造りの建物109棟が点在する。
「白川郷荻町集落の自然環境を守る会」の前会長で、保存地区に住む和田正人さん(63)は「50年以上も前に、合掌造り建物の保存によって、観光の村づくりへとかじを切った先輩たちの偉大さに感謝しています」と強調する。
合掌造り建物は養蚕が盛んになった江戸時代から建築が始まったとされ、3層構造の1階が居室空間、2、3階は養蚕のための空間としている。白川村と富山県南砺市相倉、菅沼のみに残る独特の建物だ。
95年には「白川郷・五箇山の合掌造り集落」として世界遺産に登録され、最盛期は年間200万人を超える観光客が訪れた。
建物ばかりでなく住民の様々な取り組みが魅力を創り出している。カヤぶき屋根のふき替えの材料は、村内でカヤを栽培して確保、「結」と呼ばれる住民同士の助け合いの組織が定期的にふき直す。都会では見られない住民自らによる作業風景は観光客の人気を呼んでいる。
火災から守るため、各所に放水銃を設けるなど防火設備も充実させた。住民による放水銃からの一斉放水点検は息をのむ風景でメディアでもよく取り上げられる名物となった。
守る会は50年後を見据えたまちづくりを進める。地区内に空き家はないが、将来の後継者不足や空き家問題に対応するため検討会議を開いている。野谷信二会長(47)は「時代の変化に柔軟に対応した保存活動のあり方を探っていく。住民の皆さんと力を合わせ、子や孫の世代へと合掌造り集落を守り伝えていきたい」と言う。
(2024年2月4日付 読売新聞朝刊より)
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