日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2024.2.5

【歴史的町並み 受け継ぐ営み・4】企業提案で活性化 ― 長野県塩尻市の奈良井

重要伝統的建造物群保存地区制度が創設半世紀となり、選定保存地区は全国43道府県127地区に広がった。最初に選定された岐阜県白川村の合掌造りの山村集落は、日本を代表する観光地になった。富山県高岡市は江戸、明治時代から続く三つの保存地区で住民がそれぞれの特性を生かしたまちづくりを進める。ただ、災害に弱い木造建築が多く、後継者不足も深刻で、保存・継承には課題が多い。能登半島地震で大きな被害を受けた石川県輪島市の黒島町の現状と、企業の提案で新たなまちづくりに着手した長野県塩尻市の奈良井もあわせて紹介する。

竹中工務店は、伝統的建造物群の活用に向けて長野県塩尻市の奈良井で高級旅館を核として2021年8月、新たなまちづくりをスタートさせた。休業していた旧杉の森酒造の築200年を超える建物=写真©ROCOCOPRODUCE Inc.=を旅館などに改修し、奈良井のランドマークとしてインバウンド(訪日客)を中心に観光客を集めている。

奈良井は江戸時代からの宿場町の町並みを残し、1978年に重要伝統的建造物群保存地区に選定され、住民と自治体で保存してきた。観光客は年間60万人を超える年もあったが、大きな宿泊施設がなく、通過するだけの観光地にとどまり、空き家が増えるばかりとなっていた。

塩尻市の依頼を受けた竹中工務店まちづくり戦略室は、建造物群を借り受けて、リノベーションした、一室10万円を超える旅館「BYAKU Narai」をはじめ、古民家をレストランなどに再生し、人を呼べる街へ“再開発”した。

当初は、大企業の進出を警戒する声が上がったが、竹中工務店は、住民にも利用でき、観光客を呼び込める施設を核にした町並みで活性化を粘り強く伝えた。

伝統的建造物の改修には制約が多いため、県、市から特例を認めてもらいながら、外観をそのまま残し、防災上、心配された柱、はりなど技術的に手を加えてにぎわいをとりもどす施設を導入した。

同戦略室の高浜洋平シニアチーフエキスパートは「商売しやすく、伝統的な建造物も残すという課題を両立させる不思議な提案だったと思う」とする。今では市外から進出してくる商店も増えたという。

(2024年2月4日付 読売新聞朝刊より)

Share

0%

関連記事