重要伝統的建造物群保存地区制度が創設半世紀となり、選定保存地区は全国43道府県127地区に広がった。最初に選定された岐阜県白川村の合掌造りの山村集落は、日本を代表する観光地になった。富山県高岡市は江戸、明治時代から続く三つの保存地区で住民がそれぞれの特性を生かしたまちづくりを進める。ただ、災害に弱い木造建築が多く、後継者不足も深刻で、保存・継承には課題が多い。能登半島地震で大きな被害を受けた石川県輪島市の黒島町の現状と、企業の提案で新たなまちづくりに着手した長野県塩尻市の奈良井もあわせて紹介する。
〔2024年〕1月1日に発生した能登半島地震は、石川県輪島市の黒島町の重要伝統的建造物群保存地区に大きな被害を与えた。文化庁は、中核の重要文化財「旧角海(かどみ)家住宅」の主屋倒壊を確認、町並みの多くが被災したとみている。
黒島町は、江戸中期から明治にかけて活躍した北前船の船主や船頭が住んでいた集落で、能登半島の北西に位置する。
2007年3月の地震でも被災し、旧角海家住宅など町並みの多くが大きな被害を受けた。輪島市は、歴史的価値の高い町並みを残すため、文化庁に働きかけ、09年に重要伝統的建造物群保存地区の選定を受け、国からの助成を得て、10年から保存修理事業を進めた。旧角海家住宅は所有者が輪島市に寄付、復旧後の16年に国の重要文化財に指定された。
これを機に、輪島市は22年3月に新たな防災計画を策定、官民連携で災害に強いまちづくりに着手したばかりだった。
文化庁は「大地震で被災した伝統的建造物群を一棟ずつ復旧することは技術的には可能」と言うが、町並みの保存は「避難した人たちが戻ってきて、生活を始められる」時期になってからがスタートと指摘する。
2011年3月の東日本大震災では、千葉県香取市の佐原(商家町、1996年選定)、茨城県桜川市の真壁(在郷町、2010年選定)が大きな被害を受けた。屋根瓦が落ちる、土蔵造りのしっくい壁が崩れる、石積みの蔵が崩れるなどしたが、住民が希望した建物は復旧を遂げている。
文化庁によると、伝統的建造物群は、木造の建物が集まっているため、地震だけでなく台風や大雪、火災など様々な災害の危険にさらされている。防災、防火対策を進めながら、住民が住み続け、必要に応じて建物の修理を行いながら保存していくのが、被害を最小限にとどめるカギと言える。
(2024年2月4日付 読売新聞朝刊より)
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