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2023.3.9

【ポケモン×工芸展作品紹介 4】 わざ「かげうち」 漆で表現

企画展「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」が〔2023年3月〕21日、金沢市の国立工芸館で開幕する。陶磁、金工、ガラスなど工芸の各分野で活躍する作家20人がポケモンをモチーフに作品づくりに挑み、完成させた約70点を展示する。作家の横顔や作品の特徴、駆使した技巧などを紹介する。

 

◇漆工◇ 田中信行さん (63)

(金沢市)

作品は、見上げるほどの大きさの漆黒のオブジェ。前に立つと、磨き上げられた表面に自分の姿が映る。日本独特の妖怪物語から連想し、「影が妖怪のように現れて、相手が漆黒に吸い込まれるイメージ」で制作したという。タイトル<無題>には、見る人に考えを巡らせてほしいとの思いを込めた。

高さ207センチ、幅106センチ、奥行きは70センチ、重さ20キロ。「人間のサイズを超えると威容に映る。滝も樹木も人より大きいので信仰の対象になるんです」

一昨年、主催者から出品を打診された時、ポケモンのことをあまり知らず、断るつもりでいた。しかし、「ポケモンの技に、影をのばして相手の背後から攻撃する『かげうち』という技があります。影と漆黒を結びつけて表現してみては」と提案され、心を揺さぶられた。「漆の黒色に魅せられ、作品に生かすことを常に意識してきたが、影をテーマにしたことはなかったので」

田中信行〈無題〉2022年 個人蔵 撮影・斎城卓

まず発泡スチロールを削って作品の原型を作った。麻布を貼り、漆を塗っては丸1日乾かす作業を繰り返した。炭などで表面を研磨して仕上げた。制作に6か月を要した。

東京芸術大・同大大学院で漆の製法や乾漆を学び、東京で高校教諭などをしていた。39歳の時、現在は教授を務める金沢美術工芸大の教員になった。北陸は漆器製作が盛んだ。漆に向き合うのに絶好の場所だと思ったという。漆の特性を生かすことに専念しながら、作品は器物から巨大な板、凹凸のある曲面などのオブジェに変遷した。

「今回の展示は、ポケモンの技と漆芸が結びついたのが面白い。子どもたちが作品を見て、何でできているんだろうと関心を抱いてもらえれば」と話していた。

▽会期 〔2023年〕3月21日~6月11日。休館は月曜(5月1日は開館)、5月14日。問い合わせはハローダイヤル050・5541・8600。
▽主催 国立工芸館、NHKエンタープライズ中部、読売新聞北陸支社
▽特別協力 株式会社ポケモン
▽制作協力 NHKプロモーション
© 2023 Pokémon.
©1995-2023 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

(2023年3月8日付 読売新聞朝刊より)

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