日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2023.3.16

【ポケモン×工芸展作品紹介 7】 深い黒色 彫金の技

企画展「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」が〔2023年3月〕21日、金沢市の国立工芸館で開幕する。陶磁、金工、ガラスなど工芸の各分野で活躍する作家20人がポケモンをモチーフに作品づくりに挑み、完成させた約70点を展示する。作家の横顔や作品の特徴、駆使した技巧などを紹介する。

 

◇金工◇ 桂盛仁さん (78)

(東京都)

吸い込まれるような黒色は塗ったわけではない。月光を浴びて進化したポケモン・ブラッキーの帯留め金具の色彩は、赤銅を薬液で煮て発色させて生まれた。輪っか模様の金も、瞳の赤も「全て金属の色。これが日本古来の技術です」。彫金の技を50年余り磨き続けてきた人間国宝は語った。

「ピカチュウはポケモンですか?」。出品依頼を受けた時、思わず尋ねた。戸惑うばかりだったが、ブラッキーの色合いを見て、「赤銅で再現できる」と挑戦を決めた。

厚さ1.2ミリの赤銅の板を表裏からたがねで打って立体を作り、別の金属をはめ込む平象嵌ひらぞうがんを二重三重に駆使して金の輪っか模様や、瞳のハイライトを表現した。耳やしっぽの金模様は、別の金属を着物のようにかぶせる被金きせがね象嵌で再現している。

桂盛仁<帯留・ブローチ ブラッキー「威嚇」「眠り」「立ち姿」>2022年 個人蔵 撮影・斎城卓

ブラッキーをモチーフにした作品3点のうち、悩んだのが、月光を浴びて眠る姿のブローチ。ブラッキーの後ろに月を置いてスケッチしてみたが、しっくりこない。思案するうちに、金の裏板を広めに取り、はみ出した金色で月の光を表現する手法に行き着いた。「表からうっすら線のように見えると品がよい」とされる裏板にとらわれない大胆なアイデアだ。

今回は、伝説のポケモン・ホウオウやルギアをあしらった香合2点も出品する。高肉象嵌で、ふたの表面にそれぞれの姿を1ミリほど盛り上げた状態で仕上げた。ホウオウの七色の翼の色合いの変化を、金を鏨で削って再現した。

「昔通りのままではなく、何か新しいことを」と、いつもその一心だ。ポケモンという題材を得て、持てる技術を惜しみなく注ぎ込んだ。「彫金でこんなこともできる、伝統の技術がここに入っているよ、というところをお見せしたいんです」

(おわり)

▽会期 〔2023年〕3月21日~6月11日。休館は月曜(5月1日は開館)、5月14日。問い合わせはハローダイヤル050・5541・8600。
▽主催 国立工芸館、NHKエンタープライズ中部、読売新聞北陸支社
▽特別協力 株式会社ポケモン
▽制作協力 NHKプロモーション
© 2023 Pokémon.
©1995-2023 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

(2023年3月15日付 読売新聞朝刊より)

Share

0%

関連記事