新實広記
〈Vessel -TSURARA-〉
氷柱の破片 光の表情映す
「つららおとし」は、こおりタイプの技で、天空から氷柱を落下させて対戦相手にダメージを与えます。が、零れ落ちる氷の破片はうっとりするほどの輝きで、作者の新實広記はその両面性に注目して制作しました。
展示室に入ると、少し暗くて、なんだかドキドキ。砕いた氷を降らせたみたいに、ガラスの塊が点在しています。ほんのちょっと前まで、ポケモンたちが技を繰り出し合っていたかのような空間です。
カットされたダイヤモンドのようなもの、八角形に見えるものなど、形はさまざま。尖った部分に気を付けながら近づくと、発光しているみたいにぽわーっと明るく感じます。さらに色々な角度からみると、マットな面とクリアな面があることに気づきます。マットな面はいわば反射板の役割。取り込んだ光を跳ね返して、内包することができます。ガラスの底部では溜まった光がとっても明るい! 光の表情を味わいながら、「この空間にいたかもしれないポケモン」に思いを馳せたい気分です。
(国立工芸館 日南日和)
◇ ◇ ◇
植葉香澄
〈水文メッソン〉
水模様表す 日本的美意識
どこから見ても美しい模様をまとった作品が登場。モチーフとなったのはメッソン。みずタイプのポケモンです。そのため作者の植葉香澄が選んだ模様は、いずれも水にまつわるものばかり。水玉、渦巻く流水、扇状に波を表す「青海波」。また、車輪のような柄の「片輪車」は、着物や蒔絵の意匠でご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
異国から伝来した図柄のかたちを借りながら、日本独自の解釈を加え、それに合った名前で呼びならわす例はあまたありますが、片輪車の由来もなかなか素敵です。曰く、平安時代の貴人の乗りものだった牛車の車輪を取り外し、干割れ防止策として川に浸した情景が重ねられたのだとか。あふれんばかりの想像力が日々の暮らしを豊かに彩ってきた日本的な美意識の表れが、このポケモン×工芸作品には委ねられているようです。
なお、本作には穴がうがたれ、花を生けることもできます。水の模様、そしてみずタイプのポケモンなので、花の仮住まいにこれまたぴったりです。
(国立工芸館主任研究員 今井陽子)
「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」(読売新聞北陸支社など主催)は6月11日まで国立工芸館(金沢市)で開催中。問い合わせはハローダイヤル 050・5541・8600。