須藤玲子
〈ピカチュウの森〉
国立工芸館に〈ピカチュウの森〉が出現しました! タイトルにふさわしく、ピカチュウ、そして様々な植物を表したニードルレースのリボンによる構成です。
ニードルレースは糸の芸術。本作では芯材となる特製の布に、ちょうどミシンのように2本の糸で縫いながら模様を表現し、完成したらお湯に浸ける。すると芯材が溶けて、糸だけが残る仕組みです。
今回用意されたレースリボンの総数は約900本。鮮やかな黄色が空間を染め、森いっぱいに光が満ちあふれるかのよう。アーチ形の小道が皆さんを誘います。さあ、ゆっくりと歩を進めてみましょう。
見上げれば木漏れ日がきらめき、奥に目を向けるとレースの重なりがつくり出す陰影に心を奪われます。ピカチュウたちのなんと楽しそうなこと。笑いさざめくその様子に、思わず耳をそばだてたくなります。
実は1本、デザイン違いのレースリボンがあり、そこには1匹だけ色違いのピカチュウが隠れています。森がしかけた小さな秘密を探しに来てください。
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今井完眞
〈フシギバナ〉
今井完眞の制作上のキーワードは「らしさ」。モチーフとするいきものの姿かたちにただ似せるのではなく、そのものの存在感を呼び起こすのが主眼です。細部は徹底的に探究されます。陶土を用いて手びねりで成形したあと、削って骨格を定め、そうしてから細部に土を足して「らしさ」を極める手法です。
今回紹介する作品は〈フシギバナ〉です。現在1000種類以上が確認されているポケモンたちのなかで、フシギバナの図鑑番号はNo. 0003。ゲーム「ポケットモンスター」シリーズの最初期に登場したポケモンなので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
それにしてもこの〈フシギバナ〉のなんという迫力! 爪や牙の鋭さ。「陶」という物質が醸し出す重量感。口の中の徹底した作り込み。眼光の力強さ。また、釉薬の効果で艶を帯びた皮膚はしっとりとした感触を予感させます。作品のいたるところに仕掛けられた「らしさ」の数々によって、フシギバナとの出会いのインパクトが高まるようです。
(国立工芸館主任研究員 今井陽子)
「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」(読売新聞北陸支社など主催)は6月11日まで国立工芸館(金沢市)で開催中。問い合わせはハローダイヤル 050・5541・8600。
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